analogue life

シンプルな暮らしとフィルム写真のこと

M型ライカのなにが良いのか?

先日某雑誌の取材を受ける機会があった。

残念ながらその雑誌は廃刊となってしまい、自分の喋ったことが世に出ることは無いのだけど、インタビュアーと話をしていたら「一体M型ライカの何がこんなに魅力的なのか?」と改めて考えるいいきっかけになったので、ここで簡単に自分の中のライカ感を思いつくまま挙げてみようと思う。

触ったら最後。魔性の質感。

手に取った時の丁度良いズッシリ感は、このシステムの堅牢さを予感させる。

ひんやりとした金属パーツと手触りの良い貼り革、適度に重く精度を感じるヘリコイド。

ファインダーを覗いてシャッターを切った時のカタン…という小気味の良い音と、かすかに指に残るシャッターの切れた感触。

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 X-pro1/XF35mm F1.4

イカを使う人を100人集めたら、おそらく全員がライカの質感を魅力の一つに挙げるだろう。

世の中にはハッセルやニコン初め素晴らしいレンズやシステムは山ほどあって、アウトプットとしての「写真の質」にだけ焦点を当てれば、ライカであってもニコンであっても大差はなく、使い手の嗜好の差があるだけだと思う。

一方で写真を撮る体験に焦点を当てると、ライカほど「感触の良い」カメラはない。

荒木経惟が「ライカは魂を奪うカメラだ。だからずっと避けてきた」と表現した通り、触覚や聴覚に訴えかける何か魔性めいた魅力があって、一度使い始めるとこの魅力に飲まれてしまう。

M型ライカの魅力のほとんどはここに集約されていると言っても良い。

小さいということ。旅のためのカメラ。

イカは万能選手ではない。

接写はできないし、野生動物を望遠レンズで追いかけたり決定的瞬間を写真に収めることには全く向いていない。便利機能なんてものは一切ない。

一方でM型ライカは無駄な出っ張りがなく、ほとんどのレンズは小型軽量で高性能だ。

機能を切り詰めて小さなシステムに集約しているので、最小限の荷物で行動する旅カメラとして真価を発揮すると思う。

イカは旅に持ち出してポートレイトやストリート、風景を撮るためのカメラなのだ。

旅という非日常にとても似合う。

N0622019

LEICA M6/Summaron-M35mm F2.8/ACROS

N0492020

LEICA M6/Super Angulon 21mm F3.4/ACROS II 

自分の手で写真を撮っている充実感。

前述の通り、便利機能という便利機能はほぼない。

自分の目で二重像越しにピントを合わせて、絞りとシャッタースピードを決めて写真を撮る。それだけ。

M7以降のボディにはAEがあるので、絞りさえ決めればシャッタースピードはカメラが決めてくれるけど、機能っぽい機能はこれくらい。

M型ライカでは、フォーカスや露出は全て撮り手のコントロール下にある。もちろん失敗だってするけど、それを含めて撮影者の技量を反映するカメラなのだ。

機械が撮ってくれた写真ではなく、M型ライカを使って「あなた」が撮った写真なのだ。

N0542020

 LEICA M6/Summicron-M 50mm F2/ACROS II

N0512020

LEICA M6/Super Angulon 21mm F3.4/ACROS II 

機械が決めてくれた露出に従ってシャッターを切り、ネットで拾ってきたノウハウに従ってRAW現像した写真に沢山のいいねが付いた時、スプーン一杯程度の得体の知れない後ろめたさを感じることがある。

それは自分の頭で考えて露出を決めていないから、自分の手を動かして物を作っていないからじゃないかな。

多分ね。 

山のようにある素晴らしいオールドレンズ。

イカを使っていて困るのがここ。

素晴らしいオールドレンズがライカ沼という一大沼地帯を形作っていて、いくらお金があっても足りない。

1950年代に設計されたレンズであっても十分実用的だし、ライカ製品の良さは光学性能はもとより工作の良さだとか美しさ、触感の良さにまで及んでいて、もはや工芸品の域に到達している。

 

「軽くて安くて良く写る」が戦後の日本製品ならば、ライカのそれは素晴らしく良く写り、触って眺めて鑑賞できるけど高くて重いという感じ。

鑑賞は付加価値じゃないかと思うけど、素晴らしい画質のレンズをニコンやハッセルより遥かに小さく作っている訳だから、高くて重くてもお釣りが来ると思う。

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iPhone11/VSCO

困ったことに、オールドレンズは年々値段が切り上がっていく。

既に生産していない製品なのでこれはもう仕方のないことなのだけど、ここ数年で下値の切り上がり速度が猛烈な速度で加速している気がする。

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個人的には1950-1970年代あたりのライカレンズがとても好きなのだけど、もうこれ以上は買えない。

この時代のレンズは非常に手の込んだ造りになっていて、Super Augulon 21mm F3.4の前期型、Summicron 35mm8枚玉の無限ロック機構、Summarit 50mm F1.5やElmarit 90mm F2.8の惚れ惚れするような絞り羽根やローレットなんかを見ていると、手間のかかった製品ってやっぱりいいなぁって思う。

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フォントもこの時代のものが好き。ビシッと水平垂直が出てる感じが良い。

ついでに言うと社名もLEITZがいいと思う。Leicaってひょろっと軽薄な語感あるじゃない。トミカみたいな軽さ。そろそろ社名もLEITZに戻したらいいのに。

 

まとめ:気がつくと手にしている。

スペックだけみたら、国産一眼レフやミラーレスの方が圧倒的に便利なのは間違いない。

寄れるし望遠も行けるしAFは便利だし頑丈だし修理代もボッタクリ価格ではないし。

理屈で考えたらライカなんて使う理由はどこにもないんだけど、やっぱりライカが好きな理由は触った時の感触とシンプルさなんだろうなぁと思う。

何も予定がない休日、気がつくと数あるカメラの中からライカを選んでることが多い。

自分に限らずライカを使う人って大体同じ経験をしてるんじゃないかな。

嵩張らないし主張が少ないので服を選ばないってのが良いんだと思う。触っていて気持ちいいしね。

 

参考記事

aremo-koremo.hatenablog.com

 

filmmer.hatenablog.com

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