あまりアクセス解析をやらないんだけど、このblogを読んでくれている方々は何を求めているんだろう...とふと思い調べてみたら、どうもElmarit-M 90mmを調べている中でこのブログに辿り着かれる方が多いらしい。
日常的に使うレンズとなると35mmと50mmの出番が多くなるので、75mmから先や28mmの下となるとどうしても普段使いから外されちゃう印象がある。
そんな理由からか、ここ3年くらいでM6やSummaron 35mm F2.8の中古価格は2倍になってしまった一方でElmarit-M 90mmの価格はあまり変わっていないし、あまり大陸にも流出していないようで、4万円くらいから良玉が見つかる。
2021年2月現在の価格帯メモならぬメモ写真。ここからどれだけ値上がりが続くんだろう。
Elmarit-M 90mm F2.8はあまり目立たない存在だけど、描写がだめなんてことは全くない(むしろ描写性能はとても良い)ので一昔前のSummaron-M 35mmのようなお得レンズだと思う。
造りが良く仕上げが美しい
黄金期と言われる1950-60年代のライツ製品は、驚くほど造りが良く仕上げが素晴らしい。
このElmarit-M 90mmにしても前玉のすぐ後ろに配された絞り羽根の枚数と動作が見事で、半日くらいこの動きを眺め続けられるんじゃないかと思うくらいエレガント。
鏡筒のボディ側にはグッタペルカがぐるっと貼ってあって、レンズの長さを視覚的に感じさせないような配慮がなされている。
近代のレンズでこんなディテールに凝ったものなんてないもんね。芸が細かい。
絞りリングの前を持って捻ると前玉のユニットが外れる。
前後のパーツを良く見ると引っ掻き傷のようなものがあるのだけど、これはどうも組み立て(もしくは検品者)のイニシャルとシリアル番号の下3桁らしい。
うちの個体は前玉のシリアルとピントリング側の裏側の罫書き下3桁が不一致なので、どこかで別々の個体が組み合わされたもののようだ。
とはいえ写りはとても良好なので、一概にニコイチが悪いわけではないのかもしれない。
このレンズに限らず半世紀以上前に製造されたものを手に取ると、僕のところに辿り着くまで一体どんな人の手を渡ってきたんだろうと思いに耽るのだけど、これもオールドレンズの楽しみの一つかもしれない。
クラシックでもモダンでもない写り
とはいえ写りは良いんですよ。
35-50mmの標準レンズと比べたら使い所が限られるんだけど、そこまで使い所が限定されるわけじゃないし、パースを意識させる写真を撮らないのであればむしろ50mmの延長として使える感じ(ちょっと無茶な言い分だけど)。
Elmarit-M 90mm F2.8は素晴らしいレンズのくせに作例をあまり見かけないので、少し載せてみる。参考になれば。
LEICA M6/Elmarit-M 90mm F2.8/ACROS II
夏の日差しがたっぷり注ぐ九月の昼下がりでもこんな感じ。
光と影のコントラスがもっと強かった気がするけど、現代のレンズと違ってこのレンズは極端にコントラストを強調することがないところがいい。
LEICA M6/Elmarit-M 90mm F2.8/PRO400H
日没の都内にて。終売になると聞いて急いで買い貯めたPRO400Hがいい仕事してる。
やっぱり色味は穏やかで安定感がある。少しフェードするような色合いが美しい。
LEICA M6/Elmarit-M 90mm F2.8/PRO400H
冬のある日の江ノ島駅にて。こちらも同様にPRO400H。
色味に派手さはなくしっとりと落ち着いた印象。カラーネガの発色は比較的大人しめだと思う。
LEICA M6/Elmarit-M 90mm F2.8/ACROS II
近所の植物園でシートを広げて昼寝をしていた時に撮った一枚だったような気がする。
ボケは優しい。コントラストも抑えめなのでふんわりボケていく。そんな感じ。
LEICA M6/Elmarit-M 90mm F2.8/ACROS
絞ると行き過ぎない程度にカリッとするのも面白い。
適度にシャープでありながらモダンなレンズのようにカリカリバキバキに仕上がらないのが良い。
LEICA M6/Elmarit-M 90mm F2.8/PRO400H
ふんわり仕上がったSWCの後ろ姿。
このレンズはコテコテなオールドっぽい写りをするわけでもなければ、コントラストと彩度の高いモダンな写りでもない。
悪く言えば凡庸かもしれないけど、私はいい意味で中庸なレンズだと思っている。
私はフィルムとElmarit-M 90mmの組み合わせが好きだけど、案外デジタルライカとこのレンズの組み合わせもいいかもしれない。
参考記事