随分前に映画用フィルムの話を書いたらはてなブログの公式ツイッターに取り上げて頂いた。
このブログはフィルム写真、特にモノクロフィルム写真に特化していることからあまり日の目を見ることがないのでとても嬉しかった。キラキラした写真も綺麗なモデルさんのポートレイトも載ることのない、どちらかといえば地味な私写真ブログだもん。
当時使った映画用フィルムはORWO製のUN54だが、UN54を使う前から買うか止めるか随分長いこと悩んでいたKodak 5222 Double-Xがこの度到着した。007やキルビルのような名作で使われたシネマフィルムだ。
購入を躊躇っていた理由はその長さである。
一般的な長巻フィルムが一巻100フィートなのに対し、Kodak 5222は小さいサイズが一巻400フィートで大きいサイズだと1000フィートにも達する。
ガチの映画用フィルムなので長いのは当たり前だけど、長巻フィルムを詰めるためのフィルムローダーは100フィートまでしか入らないので完全な暗室で100フィートのコアに巻き直す必要がある。
巻き直し作業はどうにかやるとして、自分のようなあまり本数を撮らない人にとって400フィートは完全に持て余す…というか他のフィルムをお試しつまみ食いすることができなくなるのも気がかりだった。
…が、やっぱり誘惑には勝てず買ってしまった。このフィルムで撮られた007カジノロワイヤルの冒頭シーンがあまりに印象的すぎて我慢できなかった。ゴールデンウィークだしいいよね。
厳重に梱包された箱を開けて緩衝材を退けると小さなピザくらいの大きさのロールが入っていた。EASTMAN、5222と書かれたラベルにテンションが上がる。缶をぐるりと一周している封もいい感じ。フォントもいい。ベタ惚れしそう。
コダックにはどうしても日本だけ割高な印象があるのでB&Hから買おうとしたら、コダックモーションピクチャーさんの公式オンラインショップの方が安かった。スチル用フィルムだと$10.49のTri-X400が¥2,120に大化けしたりするので(いい意味で)驚いた。
写真用のフィルムはコダックアラリスが販売しているのに対し映画用のフィルムはコダックモーションピクチャーなので、売り方から流通まで色々違うのかもしれない。
400ft→100ftの巻き直しは難しくないけどめんどくさい
もうこれは仕方がない。
缶に密封された5222と巻き付ける相手のコア、ハサミ、ドラフティングテープ、ローダー、遮光袋を完全な暗室に持ち込み巻き付ける先のコアにゆっくり巻き付けていくんだけど、400ft巻きの5222をうっかり落っことすと芯が抜けて一発でアウトになるので、家に転がってた合板の切れっ端にコアを通すための端材を接着し、その上に5222のロールを固定して行った。
なんやら複雑な形をしているけど特に意味はないです。端材ですから。
巻き直す際は裏表間違えないようにすることと、ローダーに入る直径より指一本分くらい小さく巻くことさえ間違えなければ大丈夫だと思う。
グレイトーンの美しさに驚いた
早速このフィルムを詰めて物撮りして海辺をぶらぶら。
Kodak 5222は1959年の発売なのだけど昔のフィルムにありがちな眠たさというか古臭さがなく、黒と白のコントラストが力強くとてもモダンな印象だ。グレイトーンも美しい。一部ではコントラストが強すぎると言われているようなので、現像の際に攪拌を半分にしたのが良かったのかトーンも豊富だ。
LEICA M6/Summicron-M 50mm F2/Kodak 5222
LEICA M6/Summicron-M 50mm F2/Kodak 5222
LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Kodak 5222
LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Kodak 5222
LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Kodak 5222
LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Kodak 5222
高騰したTri-Xの代替に5222 Double-Xを…という話も耳にするけど、このフィルムは代替品ではなく5222 Double-Xというフィルムなのだ。この個性と美しさに代替という肩書きはふさわしくないと思う。
このフィルムが映画フィルムということを考えれば、製品としてのゴールは印画紙にプリントした時の見栄えではなく大きなスクリーンでどれだけ映えるかということだと思う。
もちろんTri-Xと共通する部分はたくさんあるだろうけど、別物としてきちんと扱ってあげたほうがいいんじゃないかなと。
Kodak 5222(DoubleX)について
Kodak 5222 Double-Xは1959年に発売された映画用フィルム。2022年時点で63年も続く超ロングセラー製品。
コンシューマ向けの製品ではないため情報が少ないけど、2002-2005年に乳剤とコーティングの根本的な改良が行われたということなので、今私たちが手にすることができる5222はよりモダンにチューニングされているフィルムかもしれない。1959年当時から乳剤は変わっていないという意見もあるので、推測の域は出ないけれども。