analogue life

シンプルな暮らしとフィルム写真のこと

ニューシネマフォトグラフィ

遂にシネマフィルムで写真を撮る環境が整った。

週末の早朝に届いた梱包箱を開けると、ピザボックスのようなパッケージに収められた金色の丸い缶が現れた。400フィート巻のシネマフィルム、VISION3が我が家に到着したのだ。

気分は映画フィルムの切れ端をつまみ上げる少年トト、ニューシネマパラダイスならぬ「ニューシネマフォトグラフィ」だ。初めてのカラーシネマフィルムに気分が高まる。

 

荷物の到着が早い時間だったので僕の頭はまだ眠ったまま。

前日のアルコールで薄められた意識とだるい身体に鞭を打ち、急いでフィルムローダーを引っ掴んで暗室で装填する。100フィート分をローダーに装填したら、今度は手元にあった空のパトローネを乱暴にローダーに詰め込み一気に巻き取り、M6とPENTAX SPにVISION3を詰めて家を出る。

 

 

今日はお留守番をお願いするね。おいしい魚を買ってくるからいい子にしててね。

 

朝の海に向かう道すがらのカフェは開店準備中。うっすら曇った朝の光は優しい。

 

ちょっと前まではこの柵越しに人の気配を感じられたのに、気温が下がったら静かな海に戻っていた。風の音と波の音に混じって遠くから子供のはしゃぐ声が柵越しに聞こえるのがいい。

 

重く広がる雲の隙間から射す光が水面をきらきらと静かに輝かせる。これから雲が晴れるかもしれない淡い期待が広がる瞬間。

 

シャッターに絵を描く人たち。

既製品だらけになってしまった現代だからこそ、手で混ぜて作る色だとか絵って人の気持ちに響くと思う。もっともっと色で世界を埋め尽くしてほしい。

 

曇天、海、鉄骨、岩。このスパルタンな組み合わせが最高に良い。バイオレンス映画のシーンのような非日常さがある。

 

ビーチサンダルと流木。サーファーはポイントを求めてフレームアウトした。

 

Birthday Mixなんてカセットテープが目に飛び込んできた。そういえばMIXテープなんて言葉はいつの間にかどこかに行ってしまった。



日没が近づく頃にはいよいよ雲が暑くなり、北風が体温を奪い始めた。まだらな厚さの雲の切れ目から金色の光の筋がの伸びたり隠れたり。この時間になると観光客もいよいよまばらになる。

さぁそろそろ帰る時間だ。

 

帰宅後にフィルムを現像した。

初めてのカラー現像が上手くいった自分を讃える時間だ。朝の二日酔いがどこかに消えたのをいいことにまた飲み始める。

映画「ニューシネマパラダイス」ならここで初恋の人の面影が脳裏を掠め、手からグラスが滑り落ちるのだけど、あんな美しい人が目の前に現れることもなく初めてのカラーネガ自家現像の嬉しさでテンション高い。

いいぞ、もっとやれ!

*1-5枚目、10枚目はLEICA M6, Summaron 35mm F2.8、6-9枚目はPENTAX SP、Zeiss Jena Flektogon MG 35mm F2.4。フィルムはすべてEastman Kodak VISION3 250D

映画用に設計されたVISION3の色は彩度が低めでしっとりと落ち着いた雰囲気だった。

曇天と室内で試し撮りしたからか僕の現像手技が原因なのか青みが強い色だけど、暗部も潰れずハイライトも粘るしノイズレスでディテールが豊富に残っているあたりはまさに映画のための業務用フィルム。カラッと快活なPORTRAとシネマっぽいしっとり感のあるVISION3、そんな印象。

今度は晴れた日や夜の街をぶらぶら歩いて撮ってみようと思う。

RICOH GRIII/ DxO Filmpack Adox Silvermax 21