お世話になった方々へ送った最後のEメールが無事に飛んでいったことを確認し、自らの任務を全うした達成感を胸に潔くPCをシャットダウンした。
抜け殻のようになったPCを改めて眺めると、AとPのキーの印字が削れている。自分でも知らないうちに薬指を立てて無意識にガリガリ削ってしまったのだと思う。
一日に何十件もメールを書きたくさんの書類を校正したり作ったりする毎日に付き合ってくれたPCは時代遅れの低スペックだったので、無理やりWIndows10にされた後はきっと苦しかっただろう。最後の方はやたら発熱するし動きが緩慢になるしで、使っている方が心配になってしまった。
長いこと頑張ってくれたけど、ここで僕と君はお別れだ。
僕が送った最後のメールに返信を書いてくれた人がいたかもしれないが、もうそれを確認する術はない。
もうこのPCは電源を入れられることもないだろうし、僕のアカウントも数時間後には消えてしまう運命だ。どんなに長く仕事をしていようと組織に貢献しようと、事務的に冷徹に処理され永久に開くことはない。
身の回りの物を紙袋に詰め、IDを返してオフィスを去る。
ここ数年ずっと胸につかえていた何かと肩の荷がスッと消えていった。今はやり切った達成感で胸がいっぱいだ。
HASSELBLAD 907X/XCD 45mm F4
しばらく無職の人としてカメラを持ってぶらぶらしたら、そのうち社会復帰します。
仕事と家庭に振り回されてきちんと写真を撮れない自分に向き合えない日々が何年も続いていたので、しばらくの間は何者にも縛られない生活をしなければならない。
好きなだけ朝寝て毎日酩酊して写真を撮って好きなものを食べる生活。
命の洗濯をする時間だ。