analogue life

シンプルな暮らしとフィルム写真のこと

写真に行き詰まった時は

写真家の名言を検索できるサイトを眺めていたら半日が過ぎていた。

有名どころの写真家の名言がたくさんあってずっと見てても飽きない。エルスケンいないじゃんとかアラーキーいるけど土門拳見当たらないじゃん…みたいな過不足があるのは仕方がないとして、これから写真を始めてみようと思う人にとって先人の言葉はとても参考になるんじゃないだろうか。

建築家だとか写真家の「名言」の中の数パーセントは世迷い言だったり本人が何かに酔ってしまった本当の迷い言が占めているので、全部を真に受けてしまうと大変なことになる。しかしながら格言の多くは示唆に富むものばかりなので、宝石箱を漁るような気持ちで眺めてみると面白いかもしれない。

photoquotes.com

改めて眺めていたら懐かしい発言を見つけたり新たな角度で見ることができる言葉があったので、自分の中でとても役に立った名言を少し抜き出してみた。

ロバート・キャパ

“If your pictures aren’t good enough, you’re not close enough.”

あなたの写真が退屈だと感じるなら、それはあなたが被写体に近づいていないからだ。

広角レンズを使っている時に「なんか上手くいかないなぁ」と思った時は2,3歩近づいてみるとモヤモヤが解決することが多い。超広角を使うときはさらに一歩踏み込むようにしている。一歩後ろに下がってしまうのは何かを恐れているから。恐れは何も生まないが、もっと寄っておけばよかったという後悔だけが後味悪く続く。

www.magnumphotos.com

マヌエル・アルバレス・ブラーヴォ

A photographer's main instrument is his eyes. Strange as it may seem, many photographers choose to use the eyes of another photographer, past or present, instead of their own. Those photographers are blind.

写真家の道具は自らの目だ。不思議なことに多くの写真家は自身ではなく、過去と現在の他の写真家の目を使っている。そんな写真家は盲目と言っていい。

写真のネタに困った時、Googleの検索窓に「〇〇 絶景」とか「〇〇 写真」と打ち込んで風景を探した経験はないだろうか?

みんなが撮る絶景をトレースすることが悪いことではないけど、自分のことを写真家だと思うなら(そうなりたいなら)自分の足と目で被写体を探してシャッターを押すようにしたい。面白い写真家は常に、見たこともない風景や日常を切り取って僕らの前に提示してくれる才能なのだから。

www.moma.org

アンセル・アダムス

I believe there is nothing more disturbing than a sharp image of a fuzzy concept!” 

曖昧なコンセプトを明瞭に描いた写真ほど神経を逆撫でするものはない。

“Twelve significant photographs in any one year is a good crop.” 

一年に12枚素晴らしい写真が撮れたとすれば十分な収穫だ。

 “Notebook. No photographer should be without one.”

ノートを持たない写真家はいない。

何を撮ってるんだかさっぱりわからない写真は世の中にたくさんあるけれど、作者である自分が写真の意図を説明できなかったとしたらとても悲しいことだと思う。たとえどんなにSNSでいいねをつけられようとRTされようと、作者が説明できない写真は遺棄された親なし子のようなものではないだろうか。

少なくとも自分が何を考えて撮っていたかくらいは話せるようにしておきたい。そのためにも、思いや反省を書き留めるメモ帳は常に持っていたい。瞬間の思いを書き留めておくと自分の成長につながるはずだ。

www.thecollector.com

リチャード・アヴェドン

"All photographs are accurate. None of them is the truth."

写真は正確だが、そのどれもが真実ではない。

荒木経惟が雑誌SWITCHのインタビューで「写真は嘘つきだな」と語っていたけど、どんな名作と言われる写真でも、その写真の前後を説明することはできない。過去の名作も大胆にトリミングされたりしているのだから、真実を伝えようとする必要はどこにもない。僕らは写真という日本語に引きずられ過ぎているのではないか。これからはPhotographの直訳になる光画と呼ぶのがいいかもしれない。

ジョセフ・クーデルカ

I don’t like captions. I prefer people to look at my pictures and invent their own stories.

私はキャプションが嫌いだ。人々が私の写真を眺めて各々のストーリーを紡ぐことが好きだ。

アヴェドンの言葉の延長線上にあるのがこのクーデルカの言葉ではないだろうか。

僕は美術館に入ってキャプションを読んでから作品をみる人間はちょっとずれてると思う。まず自分で作品を見て、何かを感じた後に答え合わせをするためにキャプションは存在するのだ。言葉で全てが説明されてしまうのであれば写真である必要はない。四角形の中でストーリーを完結しない写真が好きだ。

www.magnumphotos.com

アレック・ソス

Sometimes imperfections make something even better - which is one of the reasons why I still enjoy shooting on film.

It's important to allow yourself to fail. I think almost all of my best work has been made after I failed a different project. 

不完全さと言うものは時々よい結果をもたらす。私がフィルムで撮る理由のひとつだ。

失敗を受け入れることは大切なことだ。私の成功した仕事のほとんどは失敗プロジェクトの後に生まれたものだからだ。

葉山の神奈川近代美術館で展覧会開催中(2022/10/10まで)のアレック・ソス展はとても見応えのあるものだった。

彼の作風はドキュメンタリータッチの写真だと思っていたら、Songbookシリーズは予想以上に詩情溢れる作品だったしPound of picturesのアプローチも面白かった。彼の場合はシリーズのコンセプトがまずあって、そこに繋がるキーワードを抽出し写真に当てはめていく。カメラを首にかけて漠然と写真を撮りにいくその前に、キーワードを書き出してみると何かが変わるかもしれない。

荒木経惟

うまく撮れねぇなと思ったり、煮詰まったら、カメラ変えろ!そうしたら、自動的に写真が変わるから!

わざと下手にってわけでもないけど、うまさを感じさせちゃうとそっちにばかり目がいってしまって写ってるものが伝わらなくなる。

これはphotoquotes.comからではなく、イトイ新聞からの引用。

カメラが変われば写真も変わる…というのはあまりにも当たり前すぎるど正論だと思う。もし機材を極端に変えられるなら思いっきり変えた方がいい。デジタルからフィルムにスイッチしてもいいし35mmからスクエアフォーマットに変えてもいい。一眼レフからレンジファインダーに持ち替えるのもいい。写真に飽きたかもしれない、退屈だと感じた時にいつもこの言葉を思い出すようにしている(そして散財する)。

www.sfmoma.org

小原怜

残念ながら今の一眼レフで「下手」な写真を撮るのは難しいです。「お上手な写真」を撮るのは簡単なのに、ブレたり、ボケたりしつつも、なぜか心を打つ、という写真にならないのです。(中略)私は「下手な写真」が撮りたいのです。自分の感情を「お上手」な小手先の技術でごまかすのではなく、感情が見る人に伝わるような写真。

これは彼のblogからの転載。2021年に亡くなる5年前に書かれたご自身のblogの話がずっと僕の中で引っかかっている。僕がオートフォーカスデジタルカメラを使わなくなったのは「合焦するか盛大に外すか」の二択が嫌だったり合焦までの時間が嫌だったと思うんだけど、その後もマニュアルで撮っている理由は彼のこの話に感化されたからかもしれない。

reiohara.cocolog-nifty.com