analogue life

シンプルな暮らしとフィルム写真のこと

早春とフィルム写真

カラーネガフィルムとはなんとも不思議なメディアで、その季節の陽光だとか湿度が写真に乗ってくるような気がする。

冬の写真は暗くかさついているし春の写真は霞がかって見える。夏の写真は湿度100%に近い空間を貫いてくる強い太陽光がフィルムの乳剤面に記録されているように見えるのだ。

 

確たる証拠があるわけじゃない個人の感想に「証拠はあるのか!」と食ってかかられても困るので「気がする」って表現にしているけれど、僕個人はフィルム写真は季節の光のかたちだとか湿度を捉えていると確信している。多分このブログを読んでくれているフィルム勢の方もそう感じているに違いない。

フィルムで撮ると湿度たっぷりの東南アジアで撮った写真と乾燥した欧州の冬で撮った写真ではまったく雰囲気が違うし、メディアや大資本が礼賛するご都合主義の偽物の多様性ではない本当の意味の多様性がフィルム写真にはある。

 

せっかくなので今年の早春の写真をいくつか見ていってほしい。

N0142024

日没が早いくせに所々に春の暖かさが感じられると、あぁ日本の早春だなぁって思う。

うっすら黒の混じった青から限りなく白に近い青まで緩やかに続くグラデーションの上にくっきりと伸びる枝振りと花のコントラストが美しい。

N0152024

不吉な夕暮れ。

黒い雲が群青色の空に広がろうとしている。Vision3の写す空の青はとても気持ちが良い。白い雲はカラッと写るし黒い雲はどすんと重量を感じる。

N0162024

起こしても起こしても目が覚めない子供。

うっすら差し込む朝の陽射しはまだ低く暗く、白いシーツと掛け布団に青い皺の陰影を残している。足の指をぐにぐに曲げて「お、き、な、い、ぞ」と主張された。

N0132024

季節外れの暖かな春の日の写真。

日差しが強いと木々や葉の色乗りも一層生き生きと感じられる。

N0192024

何年振りかの大雪の日。

初夏の日差しとは対照的な鉛色の空の下の枯れ枝は水分の抜け切ったカラカラな雰囲気。でも決して寒々しい雰囲気ではない。

N0202024

これも寒い曇天の日だったと思う。

がっしりした毛質の羊が寄ってきた。羊の毛は想像以上に硬くわしわしとしているので、暖かいだろうと思って手を伸ばすとちょっとびっくりする。

ある日の海辺。

この日は冷たい風だったけど春の雰囲気に溢れた日差しだった。もくもくとした雲に湿度を感じて頂けるだろうか。2月の寒さに支配された空気の隙間を縫うようにぬめっとした南風が一瞬吹くと、あの水平線の少し手前くらいまで春が来たのだろうと想像を巡らせる。

家に帰りその日に撮ったフィルムの現像を始める。

湯沸かし器のスイッチを入れ流し始めたが水道水はまだまだ冷たい。真冬のあのビリビリする冷たさを感じなくなると僕たち自家現像民は「やっと冬が終わったぞ」と実感するのだ。まだ今年の春は小さな断片のまま。冬が終わるにはもう少し時間がかかりそう。

 

写真はすべてLEICA M6 Summicron 50mm F2 Kodak Vision 3 250D

今週のお題「小さい春みつけた」