土曜日の朝、二日酔いの頭をどうにか起こして遅い食事を摂りながら、ヒトは一体どれくらい文字を読み続けたら気が狂うのか？読書の致死量なんてものがあるとしたらいかほどのものか？…という呆れるほどどうでもいいことをボンヤリ考えていた。
本の読み過ぎで死んだ人なんて歴史をひっくり返してもいないと思う。
地震で倒れてきた本棚の下敷きになってお亡くなりになった人だとか本棚のせいで床が抜けて大怪我をした人はいたかもしれないけど、文章を読みすぎて死んだ人はいないはずだ。
一方で文字を読み続けて気が狂った…というと言い過ぎだけど、精神の不調を来した人はそこそこいるのではないだろうか。
いま振り返ってみると自分もその1人だったかもしれないので、思うことを少し書き記してみる。
はじまりは1年くらい前だったと思う。
いつの間にか本を読んでいて内容が頭に入ってこなくなった。次いで仕事のメールや書類が理解しづらくらった。ただでさえ回りくどい書き方をする行政の文章に至っては3回4回と読み直す始末だし、目の前の人が喋っていることが消化できなくなったあたりでかなりやばいとは感じていた。
会話に追いつかない症状はまず英語、ついで日本語で表れた。
個々の単語の羅列として頭に入ってくる会話の内容が組み立てられない。気がつくと意識は会話から離れたところにあって白昼夢のような状態。母国語のはずの日本語でも話が捕まえられない。素手でドジョウを掴むようにスルスルと脳がスリップしていく感じ。
これは加齢とは別になにか原因があるのかもしれないと思い、前職を辞めた後の1ヶ月間意図的に言葉や文字を遠ざけてみた。
メールやSNSを極力控えニュースを読まないようにして、人と会わずに会話もあまりしない代わりに写真を撮り歩き続けたり音楽を聴いていたり、猫と過ごしていたりと非言語的なインプットとアウトプットに専念してみたら脳にずっとかかっていた靄のような疲労が少しずつ消えていった。
まだ完全に靄が取れたわけじゃないけどそれでも大分楽になったので、もしかしたら言語を介したコミュニケーションは想像以上に脳の毒なのかもしれない。
振り返ってみれば日に300件以上流れてくるメールと切れない仕事の相談と雑談、家庭の会話、子供が持ち込むトラブル、感情を逆撫でするニュース、SNSのやりとり…等々、入り口が耳か目かの違いはあれどこれら全ては言語を介したインプットであって、脳は入ってきた情報の前後関係や背景を推察し損得計算にフル回転で従事しているのだ。現代社会はやり取りされる言葉たちを額面通りに受け取って終わらせてくれるほど甘くない。
インプットの数だけアウトプットがあり、アウトプットの数だけ脳が疲弊する。推察と予測分岐と判断が次から次へと押し寄せてくる。
疲労の程度は組織のガバナンスや個々人のキャパシティに依存する訳だけど、自分の場合は明らかに前者がおかしかった。持ち前のHSP気質もこれを加速させていたんだと思う。
じゃあ一日にどれくらいの言語インプットが適切なんだろうと思い調べてみたら、ことメールに関しては世間の1日平均は送信16.27通、受信66.87通なのだそう。
ちなみに映画の字幕の業界では人が1秒に吸収できる文字は4つまでとなっているらしい。
単純計算で1分間あたり240文字で、1時間読み続けたとしても14,400文字なのでざっと原稿用紙36枚分ということになる。一日の労働時間を7.5時間とすると、休みなしに文章を読み続けると一時間あたり原稿用紙で5枚分近くだ。
どう考えても僕らが日々読んでる文章はこの量で収まってない。
子供の頃から読書は良いことだと言われてきたし、大人になると議論をすることがよしとされる。政治的な関心を持ってニュースに触れ、SNSで他者と触れることもよしとされるけど、時間当たりに人間が処理できる能力を考えると、あまりにも言語コミュニケーションに暴露されすぎなんじゃないかと思う。
メンタルが疲れているなぁって感じ始めたら、デジタルデトックスとかスマホ断ちから一歩踏み込んで「文字断ち」をしてみると精神的に楽になるかもしれない。
そんなことをぼんやり考えているけど…読みたい本はまだまだあるんだよなぁ。
本を死ぬほど読むのはリタイアした後かな。
追記：
はてな運営に取り上げて頂いたことでたくさんの反応を頂き驚いている。
改めて読み直して自身を振り返ってみて思うのは、文字の読みすぎが原因になる精神的不調は万人に起きるものではないかもしれないということです。おそらく僕自身のHSP気質というかINFJ気質というか、生まれ持った気質によるものかもしれないなぁって思いました。
