analogue life

シンプルな暮らしとフィルム写真のこと

嵐の前の観音崎を歩く

台風19号が首都圏を直撃する前日に、何故かふと観音崎の思い出が頭をよぎった。

最後に観音崎に行ったのは数年前。友人達と横須賀中央駅から浦賀駅を目指して散歩している途中に観音崎に寄ったのが唯一の観音崎訪問だったのだが、あの頃は結構な時間仲間たちと歩き続けた記憶がある。

 

今回は全くの思いつきで足を観音崎に向けたので予定は未定。

最近気に入っているM6とSummicron-M 50mm(4th)のセットに加えてDP1 Merrill、Summaron-M 35mm F2.8、Elmarit-M 90mm F2.8をかばんに詰めたら予想以上の重量になった。当たり前だけど機材って重いんだよね。

今回の散歩で使用したフィルムは全てAdox Silvermax。現像は自宅キッチンで行なった。

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LEICA M6/Summicron-M 50mm F2(4th)/Adox Silvermax

ひとり単調な国道を歩き続ける時間も体力もないので横須賀駅まで行って観音崎ゆきのバスを捕まえる。横須賀駅から観音崎までは35-40分程度。あまり便数はない。

観音崎に到着しぶらぶら散歩していると、長玉をつけた一眼レフを海に向けながらスマホを弄り続けるおじさま達の姿があちらこちらに。

おじさま達の砲列の先に目をやると海上自衛隊の艦艇が…それも一隻や二隻ではなく潜水艦まで沖合に向けてどんどん出航していくではないか。軍事方面にあまり詳しくないので知らなかったのだが、台風避泊というやつらしい。

おじさま達は艦艇に向けて熱心にシャッターを切るけれど、90mm以上のレンズを持っていない私は船を撮ることはできずに歩き続ける。 

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LEICA M6/Elmarit-M 90mm F2.8/Adox Silvermax

初めて観音崎を訪れた時に私の心を鷲掴みにしたのがこれ。

旧海軍が東京湾に侵入した敵国の潜水艦の音を検知するために作られた水中聴測所の遺構なんだけど、近づくことのできないこの遺構を初めて目にした時のあの気分を今でも忘れない。

海岸沿いの散歩道を歩いていると観音崎らしい岩場に出る。せっかくだから散歩道から砂浜へ降りて岩場を少し散歩。観音崎は長い時間の積み重ねの末にできた岩場所々に顔を覗かせる。海上自衛隊の艦艇に混じって貨物船が水平線の上を進んでいた。

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Adox Silvermax

最近出番が減っていたけど、やっぱりズマロン35mmは良く写る。最近値上がりのペースがさらに上がって並品が20万円代になってきたようだ。このレンズが枯渇すると個人的に困るのでみんな買わないで欲しい。

 

岩場を少し進むと打ち棄てられた人工物が視界に入ってくる。

独特の岩場を形成している観音崎周辺にあって、この柱の残骸のような構造物は異彩を放っている。随分と年代を感じる残骸の遥か彼方をゆっくりと海上自衛隊の艦艇が沖合に向けて進んでいた。

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Adox Silvermax

後日この柱の一部と思われる人工物のことを調べてみたら、どうもこれは戦争遺構でもなく打ち上げられた何かでもなく、関東大震災で被災しその後解体された観音崎灯台の残骸のようだ。

www5d.biglobe.ne.jp

風が次第に強くなり雲が厚みを増してきたので、浦賀駅まで歩くのはやめにして帰りのバス停に向かって引き返す。道中太陽が顔を覗かせ水面をキラキラと光らせ始めた。

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LEICA M6/Summicron-M 50mm F2(4th)/Adox Silvermax

急いで灯台に登り眼下の海を撮ってみる。水平線の向こうの稜線と雲が美しかった。

嵐の前の一瞬の晴れ間。水中聴測所の遺構とそこに向かう小さな岬の地形が、厚い雲の雰囲気と相まってどことなくMYSTの世界を思い起こさせる。

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SIGMA DP1 Merrill

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LEICA M6/Summicron-M 50mm F2(4th)/Adox Silvermax

バス停に向かう道中、茂みの中から大きな鳥が出てきた。

自分でも恥ずかしいくらいに鳥の知識がなくて困る。次出かける時は野鳥図鑑でも買おうかな。

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LEICA M6/Elmarit-M 90mm F2.8/Adox Silvermax

バス停で路線バスを待つことしばし。

やってきたバスの運転席の後ろの席に腰を下ろし、つい数時間前に来た道を帰る。無い時間をどうにかやりくりしてぶらぶら歩きをした今回の短い散歩はこれでおしまい。

この後急いで銀座まで出て人生初のハズレ個体を摑まされる羽目になるのだけど、その話はまた次回。

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LEICA M6/Elmarit-M 90mm F2.8/Adox Silvermax

最後のACROS

ストックしておいた最後のACROSを冷蔵庫の奥から取り出した。
真夏の太陽がぎらぎらと照りつける土曜日の朝、リビングのエアコンを夜通しかけっ放しにしていたにも関わらず部屋の気温は朝から高い。

冷蔵庫から取り出されたフィルムは、部屋の湿気を纏いうっすらと汗をかいているようにも感じられた。
この時勢、写真フィルムの運命なんてハナクソよりも軽いのかもしれない。名作モノクロフィルムと言われたACROSだって例外では無い。

物事の幕切れ、最期なんてあっけないものである。

 

2週間近くかけて最後に残った2本のACROSを撮り終え、家に帰り昼間から酒を飲みつつ自家現像。
手元にあったSilvermax Developerで現像。薄紫色の廃液を捨ていままで何度となくやってきた手順に従って水洗を終えバスルームに吊るすことしばし。撮り終わった時点で、もう既に後戻りはできない訳だけれど、吊るされたフィルムを改めて眺めているとACROSを使い終わった実感が湧いてくる。

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Fuji Xpro1/ Fujinon XF35mm F2.8

ACROSで最後に撮ったのは晩夏の海辺

フィルムをM6に詰めながら、最後のACROSで何を撮ってやろうかと一瞬考えたものの、考えれば考える程何も撮れなくなりそうな気がしたので、あてもなく都内をぶらぶら散歩しつつシャッターを切り、気がついたらに海辺に向かっていた。

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LEICA M6/Summicron-M 50mm F2/Fuji ACROS 

 

暮れゆく夏の日差しがぎらぎらと照りつける海岸は最後のACROSを使うのにうってつけの場所だったかもしれない。

初々しく優しげな初夏の日差しに比べ、残暑の日差しは過酷でありながら秋の気配を忍ばせていて、最後のACROSを詰めたカメラで撮る風景としてなにがしかの意味がある場所だったように思う。

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LEICA M6/Summicron-M 50mm F2/Fuji ACROS

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LEICA M6/Summicron-M 50mm F2/Fuji ACROS

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LEICA M6/Summicron-M 50mm F2/Fuji ACROS

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LEICA M6/Summicron-M 50mm F2/Fuji ACROS
 

晩夏の海辺は美しい。

つい先日までそこにあった喧騒が途端になりを潜め、強い日差しの向こう側から波の音が延々と聞こえてくる。穏やかな景色の中に焼きつくような強いコントラストの長い影が、夏の名残を物語っているかのようだ。

 

代わりのフィルムを探して

過去を振り返るたびにACROSは本当にいいフィルムだったなぁと思う。描写は精細かつ緻密。現像を失敗したこともなければ失敗写真を量産したこともなく、悪い思い出が一つもない。

本来ならばACROSの後継フィルムにスイッチして使い続けたいのだけれど、ACROS終売の決定と後継フィルムのアナウンスがどうにもマッチポンプ的というか田舎のパチンコ屋の新装開店的というか、予め予定されていた値上げの寸劇のようで、喜んで使う気になれない。

そんな訳で私はこれを機にACROSからAdox Silvermaxに切り替えようと思う。

ACROSとあまり変わらない価格で調達できるしシャープネスはACROSと同等のレベルだと思う。加えてこのフィルムは短波長側の感度が素晴らしく青色をきちんと拾うためグレイトーンの美しさは素晴らしいものがある。

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 Bessa R3A/Summicron-M 50mm F2/Adox Silvermax

N0532019

LEICA M6/Summicron-M 50mm F2/Adox Silvermax

 

filmmer.hatenablog.com

 

とはいえ、ちょっと寂しい気分だったりもする

ここまで書いてみて、ほんのちょっと感傷に浸りながらいろんな人が撮ったACROSの写真を眺めている。いま市場に残っているACROSの使用期限はおそらく10月まで。もう一本どこかで調達して最後に使ってみるのもいいかもしれない。 

www.bgg-eikokudo.net

mc0116.hatenablog.com

arinomeblog.hateblo.jp

 

 

旅するカメラとしてのライカ

改めてM型ライカの良さを知る。

旅カメラというジャンルがあるとすれば、ライカは正に旅カメラの王道じゃないだろうか。今回数週間の旅をM6と共にしてその良さを改めて実感した。

堅牢でありながら取り回しが軽快で、シャッター音もおとなしい。ポートレートだとかストリートを撮るのであればこれほど頼もしい機械はない。レンズも昨今の大口径レンズに比べて遥かに小さく描写も良好だし、人間の身体スケールにとても合っていると思う。

出てくる写真の質は各人のお好みの世界なので、ここではオカルトめいたごたくを並べるつもりはないが、この取り回しと描写は素晴らしいものがある。

サイズ感や重量感だけならば昨今のミラーレスとあまり変わらないが、情緒という評価軸を足してしまうと「ライカ」と「旅」は見事にしっくりとハマる。そんな気がする。

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Xpro1/XF 35mm F1.4

イカ以上のカメラは数多くあるけれど身体スケールにあった大きさがライカの良さだと思う。改めてiPhoneと並べてみてもこのサイズ感。フルサイズデジタル一眼レフだとこうは行かない。

 

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Xpro1/XF 35mm F1.4

手にすっぽり入る大きさであり、重過ぎないけど軽すぎるということもない。まさに適者生存。

 

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Xpro1/XF 35mm F1.4

素っ気ないトップもいい。ゴテゴテしていない後ろ姿もいい。最小限のダイヤル類のみにまとめられているシンプルさも良い。レンズを35mmに変えれば更にコンパクトになる。

旅の道中にて

今回はSummicron-M 50mm F2とSummaron-M 35mm F2.8を鞄に詰めて旅に出た。

性格が無精であることに加えてバックパッカー根性が抜けないため、持ち物はいつだって最小限に留めてしまう。フィルムも最小限の数量を鞄に詰め、半分以上は現地調達とした。

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fuji ACROS 

 

N0622019

LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fuji ACROS  

私の手元にあるM6は箱入り娘だったと思う。

ほぼデッドストックのような外見で外箱一式が手元にあるので、本当にあまり外に持ち出されなかったんだろう。今回の旅はもしかしたらこのカメラにとって初めての長旅だったかもしれない。

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 LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fuji ACROS  

 

N0632019

LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fuji ACROS   

 

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 LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fuji ACROS   

 

若人よ、ライカを買わないか?そして旅に出よう。

我々日本国民は消費税を10%に上げることに同意した。

私含め「ちょっと待った!そんなの同意できない!」と異議を申し立てたい人間がごまんといると思うが、悲しいかな大多数の日本国民の意思は増税であったのだから仕方ない。

www.nippon.com

残念ながらこの消費税増税は回避できなさそうなので、欲しかった機材があるなら消費税が10%になる前に買ってしまおう。こと若い子には無理をしてでもフィルムライカの中古に手を出して頂きたい。

国産ミラーレスカメラも素晴らしいが、写真を続けているとそのうちライカフィルムカメラに触れることになるから。そして、自身を振り返って「ずいぶん遠回りしたなぁ」と思うから。

2%の増税って大したことないように思うかもしれないけど、100万円の買い物したら2万円、500万円なら10万円も差がつくんだぜ。汗水垂らして稼いだ金をこんなしみったれた国においそれと渡すなんて馬鹿げてる。

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LEICA M6/Summicron-M 50mm F2/Adox Silvermax

 

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LEICA M6/Summicron-M 50mm F2/Kodak Tri-X 400

写真に興味があってフィルムカメラの世界に踏み入れたいと考えている若い子には、ぜひフィルムライカに手を出して頂きたい。そして旅に出て欲しい。

どのライカを買う?

M6の価格はいつの間にか随分と上がってきていて、相場は大体18万から24万くらい。たまに13万くらいの個体が出てくるので許容できる状態なら買いかもしれない。露出計もついてるしフレームも28mmまで出るので使っていて何ら不満が無い。 

予算が厳しいならM4がいい。

大体の相場が10-15万くらいなのでM6よりだいぶ手を出しやすいけれど、露出を勘で決める自信がない場合は別途露出計を買う必要がある。また35mmまでしかフレームが用意されていないので、28mmのレンズを使いたい場合は外付けビューファインダーも買う必要がある。

個人的な好き好みではあるけれど、造形的にM6とM4が一番美しいと思っている。

sunrise-camera.net

 

更に予算が厳しいのであればM4-2かM4-P。

いわゆるライカ暗黒期の製品なのであまり評判は良くない。相場は12万から14万くらいなのでM4と比較してみて程度のいいM4が近い価格で出ていたら、ちょっと無理してM4を買うのがいいかもしれない。その他縦吊りがカッコいいM5やM3も大体この価格帯で買えるので、お好きな個体をどうぞ。

sunrise-camera.net

欲しいレンズが決まっていないなら現行のSummicron 50mmか35mmを1本買えばいい。後悔することはないので、清水の舞台からダイブする気分で状態の良いレンズを大枚叩いて買って良い。

blog.yokokanno.com

blog.goo.ne.jp

 

定期的に新宿高島屋か銀座松屋で開催されているクラシックカメラの即売イベントに足を向けるのも良い。ちなみに現在新宿高島屋で8月20日までクラシックカメラ博が開催中。

www.takashimaya.co.jp

くれぐれも注意して頂きたいライカ

イカは素晴らしいカメラだけど、時代時代の限定品やレアライカがあったりするので沼の深さも相当なものがある。私がうっかりハマりかけたKE-7A始め、ひと財産潰しそうなレア物があるので、珍しいライカを見かけた際は無視するに限る。

japancamera.org

ohnukicame.exblog.jp

aremo-koremo.hatenablog.com