analogue life

シンプルな暮らしとフィルム写真のこと

シンガポールのフィルムカメラ事情

仕事でシンガポールにしばらく滞在していました。

リュック背負って日本を飛び出して、毎日のように屋台とランドリーと仕事場を往復する日々。出発前に髪を切りに行くのを忘れていたので、髪はボサボサだし身なりはヨレヨレだし。元々が自由人なので全く気にならないのだけど、バックパッカーに仕事がついてきたような。そんな不思議な感じ。

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fuji C200

 

そんな滞在中のとある夜、M6ぶら下げて屋台の夕食を探していたら隣に居合わせたオタクっぽいおじさんから話かけられる。

このおじさんのカメラにかける情熱は素晴らしいのだけど、彼の喋るほぼ広東語らしき中国語を私が全く理解していないにも関わらず、頭をぼりぼり掻きながら何とか英語を捻り出し、暗室の素晴らしさやズマロンの素晴らしさ、自分はドイツ製が大好きであることを訴えかけてくる。

時折「うー…」とか「あー…」と唸って下を向き考え込んでは早口でまくし立てるこのおじさん。オタクのテンプレに乗りすぎてて微笑ましった。今思えばこのおじさんのポートレートを撮ればよかったと後悔している。

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 LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fuji C200

 

初めて訪れたシンガポールは、近隣諸国の文化がごちゃ混ぜになった上に成立しているとても色鮮やかな国に思えた。様々な宗教や文化風俗がバランスを保って共存する国。そんな印象。

 

シンガポールフィルムカメラ事情

シンガポールの写真は別の記事にまとめるとして、滞在中に中古カメラ屋が集結した雑居ビルを見つけたので忘備録的に書き残しておく。彼の国にフィルムカメラを持っていく方は当地でフィルムの調達もできるので参考にして頂ければと思う。

件のビルはシンガポールの中心部のCity Hall駅から歩いて5分ほどのところにあるPeninsula shopping centerというビル。

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住所:3 Coleman Street Singapore 179804

 

発展著しい彼の国にあって隣の商業施設と比べてしまうと正直くたびれている感は否めないし、Trip adviserには「汚くて臭い」とまで書かれている(確かに綺麗じゃないけど正直そこまで酷いことはないと思う…)けど、このビルの中は楽器屋あり中古カメラ屋ありの道楽者には嬉しい内容。

H&Mだとか無印、流行りのカフェばかり入った商業施設なんてもう要らねえ!!

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iPhone SE/VSCO

FUNANショッピングセンター横の白いビルが現場。旗を揚げるポールが5本並んでいるところまで行くとフィルム屋の看板が出迎えてくれるので間違いようがない。

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iPhone SE/VSCO

We've Filmsって響きが頼もしいこの看板の後ろは、主にフィルムを取り扱っているRuby Photoというお店。今回はあまりお世話にならなかったけど、現像液を初めタンクなんかも買えるっぽい。またここはAdoxのフィルムも扱っているらしい。

Ruby Photo[https://www.facebook.com/RubyPhotoSingapore]

 

中に入ると1Fだけで中古カメラ屋が4,5店舗あり上の階に上がると大きめの店舗がひとつある。基本的にくたびれた雑居ビルの様相。

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iPhone SE/VSCO

帰国してから気づいたけど、値札に三宝カメラの名前が…。1Fのどこかだったと思うんだけど店の名前が全く思い出せない。

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iPhone SE/VSCO

ここはソニー製品の品揃えが良かった気がする。

The Camera Workshop[https://thecameraworkshop.sg]

 

1FのにあるRiceballは入りやすくて親切な印象。

なぜおにぎりなのかは解らないけど商品のセレクトは中々いい感じ。今回の旅の道中フィルム補給のために何度も寄らせてもらったのがここ。たまに店の前にワゴンが出ていてジャンク品が並んでいたりする。日本でよく見るあの光景。

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iPhone SE/VSCO

間口は狭いけど、会話内容から常連さんと思しきお客さんが常にいる。常連さんがいても不思議と入りにくい雰囲気じゃないところが素敵。

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iPhone SE/VSCO

店員さんもフレンドリーで客層もコアな道楽者が多かった。私の横で新しいLEICA M-Eの話をしているおじさんだとかさらっとSummilux-M 50mmを買う兄さんだとかがいて賑わっていた。それにしてもこの国は金あるなぁ。

写真のお兄さんとシンガポールフィルムカメラ事情を聞いてみたら、やっぱりここ数年フィルムカメラ熱は高いらしい。彼は20歳そこそこらしく、フィルムカメラをリアルタイムで経験していない世代らしい。

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iPhone SE/VSCO

店のお兄さんに断って撮らせてもらった店内。取り扱いフィルムはこんな感じ。Portraはバラ売りしてくれるけど、価格帯は日本とほぼ変わらない。フジ記録用400の在庫をまだ持っていたのが驚きだけど、C200があったので道中はこればっかり買っていた。

モノクロフィルムをたくさん持って行ったのに、やっぱり南の国に行くとカラーネガを使いたくなる。

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iPhone SE/VSCO

うっかり立ち止まってしげしげ眺めてしまったこれ。1500SGDだから12万円くらいだけど…財布の中身とレシートの山を見たら、そんなにカメラばっかり買ってどうすんだと正気に返った。

Riceball Camera[https://www.facebook.com/RiceballPhotoBook/]

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fuji C200

上階にあるBlack Market Cameraも外せない。

ここはぐるり周囲を囲むショーウィンドウにカメラとレンズがぎゅっと陳列されていて店の中は三脚だとかアクセサリ類が所狭しと詰め込まれている。

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iPhone SE/VSCO 

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iPhone SE/VSCO

や、安くはないかな…。

Elmarit-M 28mm F2.8の値段を見る限りマップカメラとどっこいか少し高いくらい。ここんちだけじゃなくどこの店も総じて高い。下手したら日本より若干高かったりする。

安かったらシンガポール製ローライ35をお土産に買ってこうかと考えていたけど、また次回のお楽しみとすることにした。  

 

追伸:

当地でしばらく仕事をしていたら、バグっていた頭がすっかり良くなりました。仕事が忙しすぎることよりも、一人で過ごす時間が無かったことが体調不良の原因だったらしいです。

 

 

 

2019年上半期の写真を振り返る。

最近、まったく写真を撮ってない日が続いている。カメラをぶら下げて街を歩いていてもファインダーの先にある景色の何が面白いんだかさっぱり解らず、12枚撮って帰ってきてしまう。撮った写真を現像して眺めても何も感じない、面白いと思えない。そんな日が続いている。

加えてあれが欲しいこれが欲しいということもなく、行きたい場所も見たいものもない。写真に関する欲望ゼロの賢者モードで、週末は昼から酒飲んで寝てるという有様。

日照りと呼んでいい。なんの収穫もない。

ツイッターを眺めていると、みんなせっせと写真撮っていて、展覧会やったり賞を取ったり休みなく高いテンションで写真を語っていたりして凄いなぁ、と。アヘン窟の廃人のようにぼんやりネットを眺める週末が続いている。何も達成できていない。 

頭がバグり始めた。

元々の性格が飽きっぽいというのは重々承知しているが、何度も訪れた倦怠期を乗り越えて細く長く撮り続けているので、写真自体には飽きていないんだと思う。

むしろ問題は公私ともに休み時間ゼロ行進が続いている状況だと思う。

元来集団行動ができない性質で一人で物事を考えることが好きなのに、24時間365日誰かと一緒にいて常に話しかけられて返答しなければいけない状況というのは中々辛い。ゴールが見えないと言う状況はさらに辛い。

時折手は震えるし動悸はするし、メンタルの丈夫さには自信があったけど、残業と連勤で過労死したり自決する人の気持ちがちょっとだけ理解できるような気がする今日この頃なのである。もしかするとメルケル婆さんは私と同じ状況かもしれない。

www.bbc.com

メンタルが疲弊すると、驚くほど物事を考える力だとか判断する力が落ちて、自分の身の回りのことに無頓着になるというのは本当のようだ。日常生活のあらゆることが雑になっている。

出来ることなら何もかもから自由になって、誰とも会話せずOutlookの通知からも解放された風の音と波の音しかしない場所で少し休みたい。そして、気が晴れたらカメラを持ってどこかに行きたい。 

2019年上半期の写真を振り返る。

ペースを取り戻すべく少し前の自分を振り返っている。

振り返ってみて思ったんだけど、ありがたいことに2019年に入ってから5枚もin exploreに選んでもらっているらしい。今日時点で51枚ほどflickrに上げているのでこのペースは悪くない、と言うか今までで一番いいペースかもしれない。

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F.28/ARISTA Edu 100

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F.28/Fomapan 400

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F.28/ARISTA Edu 100

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F.28/Tmax 400

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LEICA M6/Elmarit 90mm F2.8/Fuji ACROS

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LEICA M6/Elmarit 90mm F2.8/Tri-X 400

  

違う景色を眺めるようにしたい

flickrに上げている写真はまま自信を持って出している筈なんだけど、振り返ってみてもどうにも面白くない。もしかしたら趣味嗜好が変わってきたのかもしれない。

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F.28/Fuji ACROS

正直な話、頭がバグってるこの状況で何が面白いのかさっぱりわかっていない。

焦れば焦るほどドツボに嵌っていくこともわかっているけれど、何かを変えなければならないと焦った数十秒後には急に無気力が頭と身体を支配する。そんな状況。

優しさが不足しています。

写真フィルムとフィルム写真の将来に思いを巡らす

2週間ほど前に方々で話題になった富士フィルムのフィルム価格改定の件。

具体的にフィルムのどの材料が値上がりしているのか外野からは中々解りづらいけど、物流コストが増加しているのは職業柄肌で感じているだけに富士フィルムとしても苦渋の選択だったのではないかと思っている。

…が、それでも30%以上の値上げ幅にはちょいと驚かされた。値上げ幅40%とか尋常じゃない数字だと思う。

たとえ会社の方針だったとしても、客先に出向いて「来月から40%値上げしますので」なんてさらっと言える?とてもじゃないけど、怖くて私にゃ言えない。終業後にこっそりメール一本流して逃げるように帰ると思う。

aremo-koremo.hatenablog.com

フジがACROSの生産終了を決定しモノクロフィルムから撤退した際に、私の中では富士フィルムという会社は終わったので、頬杖つきながら対岸の火事を眺めている気分ではあるけれど、それでもプロビアとかProHが1800円程度になると聞かされると心中穏やかではない。 

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fuji ACROS

ACROSは本当にいいフィルムだった。さよなら富士フィルム

写真フィルムの将来って、やっぱり暗いんだと思う

ところで、富士フィルムが販売店に送っていたFAXに「ワールドワイドでの長期的な需要の減少により安定的な供給が困難になった」という一節があったんだけど、エクタクローム再販の際に「アナログ・ルネサンスは世界的な消費トレンド」とプレスリリースを出していた競合のコダックとの対比が面白い。フィルム市場に対するフジとコダックの温度差って結構あるなぁ、という印象を受けた。

wwwjp.kodak.com

私は写真フィルム業界の関係者ではないので、エラそうなことは言えないし憶測で無責任なことも書けないけれど、富士フィルムは医薬品事業に進出し、いまや業績絶好調な企業であることは誰の目にも明らかだし、写真フィルム事業は既に稼ぎ頭からは程遠い状況であることも間違いない。

昨今のアナログ回帰により短期的には需要は増えるけど、中長期的に見たときに写真フィルム事業に伸びしろはないし、いち民間企業としてフィルムを供給する道義的な責任もないしね。

実際は数年前にこのような経営判断はなされていて、今回の値上げも死に向かうフィルム事業が辿るひとつの通過点なんじゃないかな、と思う。

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fuji ACROS 

デジタルで撮ろうがフィルムで撮ろうが

ぶっちゃけた話、大多数の一般消費者にとって一枚の写真がフィルムで撮影されていようがデジタルで撮影されていようが、違いなんてどこにもないのである。

デジタルで撮ってVSCOなんかを通せばフィルム風に加工することはできるし、やもすれば結構いい感じの雰囲気でフィルムっぽい画像を作ってくれたりするので、「フィルム風の絵」が欲しいだけの人は引き続きデジタルを使っている方が賢明だ。

*1

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BESSA R3A/Summaron-M 35mm F2.8/Adox SCALA

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Fuji Xpro1/XF35mm F1.4/VSCO film package 4 Agfa Scala 

AdoxのScalaで撮った路地裏と、Xpro1で撮ってVSCOのScalaプリセットを通した2枚を並べてみた。VSCOのプリセットも雰囲気あって良いし、ハイライトが変にすっ飛んでいない限り、目を皿のようにして等倍で見比べないとどちらがフィルムかわからない。 

フィルム写真の未来

1990年代〜2000年代初頭のような状況はもう二度とこない。これはもう間違いのないことだと思うけれど、じゃあ写真フィルムは絶滅するかと問われたら、そんな未来もちょっと考えづらい。

実用的な消費財としての写真フィルムの価値はすでになくなったけれど、嗜好品としての写真フィルムと道楽としてのフィルム写真は残り続けると思う。

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fomapan 400  

自分の頭で考えてシャッターを切り、自分の手で現像し紙に焼くというプロセスはものづくりのプロセスそのもので、一度この深みにハマってしまうとデジタルで写真を撮ってディスプレイの上で写真を眺めることに物足りなさを覚えてしまう。

ものづくりが好きな人にとってはフィルム写真の方が絶対的に楽しいのである。この味をしめた人は、フィルムカメラがメインになる。きっとね。

個人的には、カメラやレンズを売る中古屋さんも大切だけど、フィルム写真の楽しさを伝えるワークショップも大切だよなと思っている。 道楽の伝道、承継みたいな。

もしかしたら向こう100年でフィルム写真は、茶道とか華道みたいな位置付けになるのかもしれない。まずはレンズとカメラをお互い褒めちぎり現像タンクを愛で、攪拌作業のお点前をどうたらこうたら…みたいな伝統芸能に進化しちゃったりして。

フィルムメーカーの将来像

専業フィルムメーカーは本当に大変だと思う。

コダックアラリスやアグファゲバルト、フォマボヘミア、イルフォードあたりはちゃんと安定した経営できているのだろうか。田舎のおっかさんじゃないけど心配でならない。フジみたいに業態を変えて脱皮すればいいんだろうけど、どこのフィルムメーカーだってフジみたいな大成功はそう易々とできない。

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fomapan 400 

そんな中にあって、Adoxはある意味フィルムメーカーの将来的な姿なんじゃないかと思っている。スモールブルワリーが作るクラフトビールのように、小バッチで高品質なフィルムを作り続ける小回りのきくメーカー。

事業撤退したり倒産したフィルムメーカーから製造設備を導入し、ノウハウを承継しつつ新しいフィルムを作り出していく姿勢はとても好感が持てる。 

www.yorocco-beer.com

www.adox.de

逗子のヨロッコビールのページとAdoxの工場設立のページを並べて眺めてみると、少量高品質のものづくりにかけるスタンスが似ているようにも見える。

フジのモノクロフィルム製造設備はどうなるんだろう

ちょっと前にフジがモノクロフィルムの新製品を出すんじゃないかと云うニュースが駆け巡ったけれど、あれは企画倒れに終わっちゃったのかもしれない。…となると、フジが持っていたモノクロフィルムの製造設備はどうなるんだろう。

解体して廃棄されちゃうのかな。もし減価償却も終わってるしあとは捨てるだけ…なんてことだったら譲ってもらえないかな。

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fuji ACROS 

私一人では何もできないけれど、数人の同志を集めてクラウドファンディングを資金を集めて技術者共々事業を承継して…Adoxみたいな小さなビジネスができたら面白そうだと考えてるんだけど。

 

 

*1:注:Mac/PCで使えた旧来のVSCO filmは素晴らしい出来だったのに、残念ながら2019年2月でデスクトップ版は廃止となり以降はスマホ/タブレットのみ供給されている。