ラジオをメディアの座から追い出したテレビがネットに駆逐されかかっている21世紀においてまさかのラジオ専用機であるTivoli Audio PALを買った。RadikoやSpotifyのストリーミング放送を受信するスマートスピーカーではない。アンテナをぐいっと伸ばしてFM/AM波を受信するアナログラジオ(と言う表現が正しいか解らないが)である。ついでにBluetooth経由で音楽の再生もできる。
一通り音を出してみて製品として素晴らしくよくできていると感じた。まずは思うことを書き起こしてみる。
買うかやめるか悩ましい製品
このラジオを初めて目にしたのは新宿のコンランショップだったと思う。ぱっと見で可愛いなと思ったけどプラスチックの外装とサイズから「これって音質二の次のオシャレアイテムっぽいよなぁ」という感想だけを持ち帰った。
その後なぜか定期的にこの製品が気になり、思い出すとネットで情報を集めていた。
海外では好意的なレビューが多い一方、国内ではレビュー記事も少なくblogやSNSにもあまり情報がない。現物を見に行こうにもオーディオの店というよりはセレクトショップばかりで取り扱われているし、近所の家電量販店では安いミニコンポの横で電源も入らない状態で展示されていた。
期待と地雷臭がごた混ぜになり熟成すること数年、先日ふらっと入った新宿ヨドバシで動作する展示品を見つけた。新宿の高層ビルに囲まれたところで電波なんて入んないでしょ・・・と思いつつ電源を入れてダイヤルを回してみたら、のりピーの「碧いうさぎ」が鮮明な音で再生された。どこの局かは覚えていない。ボリュームノブを回していくと、あのヨドバシの店内を埋め尽くす騒音に負けない豊かな音量を放ち始めた。音量も音の輪郭もこのサイズのラジオからは考えられない質と量だ。
あまりの衝撃で迷わず買った。
iPhoneとradikoでラジオを聴くようになって10年くらいが経った僕の過去の記憶、外部アンテナに繋いだTrioのチューナーでラジオを聴いていた思春期の頃の記憶を思い出させたのだ。
家に帰り急いで開梱しチューニングダイヤルを回すと、今まで自分が体験したどのラジオよりも感度が素晴らしく、まるで外部アンテナに繋いでいるかのような鮮明な音がこのサイズの筐体からは考えられない豊かな音量で飛び出してきた。音量と音質については別の記事できちんと書こうと思う。
とりあえずこの記事で伝えたいのは、このプロダクトは世間からもっと注目を浴びて然るべきだということだ。
どことなく昔のアップル製品に似ている
白い筐体だからってのもあるかもしれないけど、筐体のてっぺんからちょろっと出てくるアンテナだとかダイヤルをぐるぐる回す操作性、手の温もりを感じるデザインが第3世代までのiPodに通ずるものがある。
iPhoneが大当たりした後のアップルのデザインからは計算づくの冷徹さばかり感じる。
サプライチェーンを配慮したサイズ感だとか洗練された合理性は優等生的であり、反体制的なユニークさはどこにもない。いつの間にかアップルは体制の製品を作る企業になってしまった。
そんな使い捨てが前提になってしまった昨今のアップル製品とは違う、マスのために作られた製品でありながら「使う人のため」にデザインされた製品だと思う。どことなく愛らしいのだ。
現代っ子には面白いアイテムらしい
ダイヤルをぐるぐる回すと音が出たり消えたりするし、場所と天候でなんだか微妙に音の質が違うしダイヤルをほんの少し動かすだけでノイズが乗ったり取れたりする様が子供には面白いようだ。
今の子供たちはYoutubeやAppleTVで育っているので、観たい物を一覧の中から選んでオンデマンドでどこでも変わらないクオリティで楽しめる世代なのだ。もちろんノイズなんて知らない子供たちからしたら、ダイヤルがずれるとノイズが乗るアナログラジオは面白いものなのだろう。
まず全体像が分からないというのが画期的なのかもしれない。
どの数字に合わせたらどんな番組をやっているのかを誰も一覧で提示してくれない。自分で回してみないとわからない。ゆっくりダイヤルを回して当たりを感じたら速度を緩めて一番いいところを探す。面白くなさそうなら他を当たる。この宝探し的な感覚が面白いのかもしれない。
小さな子供にプログラミングを教えようとする親がいるらしいけど、科学の入り口ってものはもっと身近なところにあるんじゃないかな。ラジオの体験は子供にとって面白いものだと思う。
持ち歩かないならModel Oneがよい
バッテリ駆動が必要なく据え置きで使うならModel Oneも良いと思う。そもそもPALはModel Oneのポータブル版という位置付けらしい。
Model OneにはFM/AM外部アンテナ端子、AUX端子が付いている。また(おそらく)PALと同じスピーカーユニットだが木製キャビネットの下部に穴が開けられており、低音がやや豊かとなっているらしい。
オリジナルのウォルナットキャビネットも良いし、より精悍なブラック塗装モデルも見た目が大変よろしい。別室に据え置く用途でModel Oneを追加でほしい。