analogue life

シンプルな暮らしとフィルム写真のこと

Adox SCALAが現像から上がってきた

現像から上がってきたAdox SCALAのフィルムを光にかざして思わず息を飲んだ。

撮った本人も忘れていたような一枚がまるで浮き上がるかのように緻密で、モノクロームであるにも関わらず、色がきちんと乗っているような印象すら受ける。

無いはずの色が見える…なんて表現すると聞こえない音を聞き分ける末期のオーディオマニアのようだが、様々な色をモノクロームの階調にきちんと落とし込んで一枚のスライドができている、そんな印象。

 

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SIGMA DP2s

 

普段リバーサルなんて使わないもんだから、今回現像から上がってきたSCALAを確認するためだけにこんなアプリを買ってしまった。これ作った人ニッチ狙いすぎだなぁ、とか思いつつ使ってみたらとってもお手軽で便利だった。

Light Box - Illuminator Viewer

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  • Systemiko Inc.
  • Utilities
  • $0.99

 

SCALAの現像はSilversalt.jpでも受け付けているとのことだったが、今回は田村写真さんにお願いした。麻布の事務所にフィルムを持って突然お邪魔した格好だったが、雑談含め快く対応してくれた田村さんはとても素敵な方だった。郵送でも対応してくれるとのことだったのでSCALA現像はハードルが一つ下がった感じ。

www.tamurasyasin.com

 

スキャンはPlustek 8200iとSilverfastの組み合わせ。スキャン時のコントラスト設定で印象はかなり変わるが、ライトボックスを通して眺めたスライドフィルムに概ね近い感じでスキャンできた気がする。Silverfastできちんとスキャンできるのか若干の不安が合ったが、この心配も杞憂であった。 

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Bessa R3A/Summaron 35mm 2.8/Adox SCALA 160

これは確か長谷寺だったと思う。陽射しの強い暑い日だった。リバーサルっぽいバリッとコントラストが効いたメリハリある感じ。 

 

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Bessa R3A/Summaron 35mm 2.8/Adox SCALA 160

最近の観光地は外国人が増えすぎてしまって正直困惑もしているし、外国人だらけの東京の景色に食傷気味になっている。これはいろんな言語で願い事が書かれた絵馬に混じって、目に飛び込んできた戦慄走る一枚。左から2番目の胴体が微妙に切れてる。なんだか怖い。

 

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Bessa R3A/Summaron 35mm 2.8/Adox SCALA 160

品川駅の金属屋根の質感がいい感じ。奥に向かって連なるディスプレイが白に飛ばないように撮ったので暗所が黒に潰れてるかと思いきや結構粘る。

 

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Bessa R3A/Summaron 35mm 2.8/Adox SCALA 160

横浜駅西口の夜といえば鈴一。鈴一といえば横浜駅西口。仕事帰りの時間は次から次へと サラリーマンやら年金生活と思しき爺様、怪しげな兄さん達が入れ替わり立ち替わり。天ぷら蕎麦を頼んだら30秒ほどで出てくる。首都圏で一番早いんじゃないかと思わせる驚きのオペレーション。

 

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Bessa R3A/Summaron 35mm 2.8/Adox SCALA 160

同じ店をフジAcrosでも撮っている。あっちはズミクロン50mmで撮ってるので純粋な比較はできないけど、繊細さで比べたらACROS が上手かな。SCALAは濃厚。

 

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  Bessa R3A/Summaron 35mm 2.8/Adox SCALA 160

これは先日成田空港廃墟駅(東成田駅)に向かう際に撮った一枚。画角は違うけどDP1Mでも撮っているので比べてみると面白い。

 

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SIGMA DP1 Merrill

 

DP1MのモノクロームやフジACROSと比べてみると、SCALAは特段シャープでも緻密でもないんだけど他所様での評判通り黒の表現力が素晴らしい。ズマロン35mmとの組み合わせが合っていたのか、ACROSやDP1Mがあっさり緻密なモノクローム写真なのに対してSCALAは湿度たっぷりで粘土高めな力強い描写をする気がする。そう、このフィルムの魅力は湿気感なのかもしれない。

他のフィルムに比べて現像コストは安くないけど、フィルム本体がそんなに高くないのでもう少し根気よく使い続けてみようと思う。

 

旧成田空港駅に行ってきた

現在の空港第二ターミナル駅から旧成田空港駅につながる通路があり、それがまた中々に廃墟感漂う味わい深い空間と聞いたので辛抱堪らず行ってみた。Adox SCALAを詰めたBessaも勿論持って行ったが、モノクローム設定にしたDP1Mばかり使ってしまった。最近フィルムばかり使っているけど、モノクローム専用としてFoveonを使うとまた別の気持ちよさがある。

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NEXの車窓の外はどんより曇り空。梅雨が近いと感じさせる空の色。千葉の田舎の風景はのんびりしていて良い。田んぼの水面に雑木林がぼんやり写っていた。

 

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問題の通路はここ。空港第二ターミナル駅のJR改札を抜けて、セキュリティゲートの手前にこっそり佇んでいる何の変哲もない通路。警官が立っているけど、別にこの通路を見張っている訳ではなさそう。

 

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成田空港駅の現在の名称は東成田駅なんだそうな。空港第二ターミナル駅は仕事で何度も使っていたけど、この通路は今までずっと見落として来た。それくらい自然で、目立たない。空港職員通用口と言われたら納得してしまいそうなくらい目立たない。

 

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成田空港駅東成田駅)までは500-800メートル。通路に入るといきなり一点透視法の世界。人の気配ゼロの先の見えない通路は、スロープで徐々に下っていく感じがちょっと怖い。

 

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通路を下りきったあたりから、壁に貼られていたポスター類がなくなり額縁だけが続く。どこかの額縁を押したら隠し部屋でのあるんじゃないかってくらい、これでもかと額縁が続く。

 

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人気はないけど、たまーに空港職員や廃墟好きっぽい人とすれ違う。消失点の向こうから複数人がこちらに向かってくると、ちょっとした不気味さがある。戦車を前にしたジョセフ・クーデルカの気分。

 

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通路を抜けた後いきなり目に飛び込んでくるこの昭和感満載の待合の椅子。低い天井と陰気な照明。無機質なタイルと屈強な柱。2000年代はじめに訪れたシェレメチェヴォ空港のくたびれ方に全く負けていない。日本式社会主義建築と呼びたくなる空間。

 

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どんつきの壁は「曲水の宴」と名された陶板壁画が鎮座。子供の時分は気づかなかったけど、大人になってから改めてみると無駄に立派な作りに驚かされる。

 

N0652018

 現在の東成田駅はいたるところに仮設壁が立てられていて、かつてのコンコースの一部は資材置き場になっている。金網の隙間から一枚。撮ってびっくり人がいた。

 

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こちらも金網の隙間から一枚。よくよく写真を眺めてみると、ポスターの広告はかの武富士。そういえばそんな会社もあったなぁと思いつつ、妙に羽振りのいいポスターでこれまたびっくり。随分といい商売してた時期があったんだな、と。

 

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自動券売機を覗いてみたら入場券があった。たった140円だしせっかくなのでホームへ降りてみる。

人っ子一人いないホームでいきなり目に飛び込んで来た構内電話。かつてこのホームが成田空港駅として稼働していた時は一日2万人近くが利用していた駅らしく、ホームも広く作られいて、それがさらに廃墟っぽさを演出しているように思う。

 

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薄い合板にニセモノの木目をプリントしただけの、時代を感じさせるベンチ。5歳だか7歳だかの時分に親戚のおばあさんの見送りに何度となく入場券を買って、このホームに降りたことを思い出す。電車を追いかけてこのホームを走ったこともあった。

あの頃はこのホームも活気があったように覚えている。

 

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あまり面白い被写体もなかったので、階段を上がった先の金網越しにもう一枚。かつてのスカイライナーのホームに続くコンコースだったと思うが、もうまるで廃墟感が凄い。

成田空港という場所は、国や自治体の横暴とその横暴に異議を唱えようとした人々を食い物にした極端に捻れた政治思想の集団が闘争を繰り広げた結果、空港に携わった人たちや携わらざるを得なくなった人たちの人生をめちゃくちゃにして、その上に成り立ってきた空港なのだと、来た道を戻りつつ考えた。この駅も似た運命の上にあったのかな、と。

 

 

ところで、帰りの電車まで時間があったので、第二ターミナルをぶらぶらしていたら旧成田空港駅以上に感動したのがカメラのキタムラ第二ターミナル店。

どーせ観光客相手にSDカードと自撮り棒でも売ってんだろ…と大した期待もせずに覗いてみたら、小さな店舗の入り口に陳列されたEktarとPortraのパッケージが目に飛び込んできた。ってか、ProviaVelviaTmaxまでちゃんとあるじゃないか。そしてフジ記録用に至ってはバラ売りまでしてくれる!安くはないけど!

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一歩都内から離れると途端にフィルムを置いている店がなくなるこのご時世、第二ターミナルのキタムラは貴重な存在であると感動した次第。ちなみにキタムラの数十メートル横で営業しているビックカメラはドライヤーだのを売ってるだけで、まるでダメだった。こちらはこちらで猛省して欲しい。

ズマロンM 35mm f2.8

店にあるレンズを数本並べて、借り物のライカMに着けて遊ぶこと十数分。気が付いたら店員さんが慣れた手つきでレンズを緩衝材でくるくると包み始めていた。幼少の頃にお使いで何度も通った近所のコロッケ屋のおばさんが油紙にさっとコロッケとメンチカツを放り込み、新聞紙と輪ゴムですばやく包む光景をフラッシュバックさせるあの軽やかな手つき。哀れ1965年製の小さなおじさんはプチプチでグルグル巻きにされ、カメラ屋のロゴが印刷された袋に丁重に放り込まれたと思ったらお会計まで終わっていた。

最後まで現行ズミクロン35mm f2と迷ったが、価格差ほどのメリットが無さそうだったことと、上品にパチンと止まる無限遠ロック機構の質感がダメ押しとなりズマロンを選択。そのうちまたズミクロン35mmのことを思い出すのかもしれないけど、その時が来たら潔くまた楽しく悩もう。

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iPhone SE / VSCO

帰り道に新宿駅ベルクで辛抱たまらずエーデルピルスを片手に開封の儀。我が家へようこそズマロンM 35mm f2.8。この佇まいを眺めているだけでも、カッコよすぎてビリビリくる。

いつもこの手の古いものを買うと、決まって前の持ち主はどんな人だっただろうと思いを巡らす。キズも曇りもほとんど無いようなので、きっと几帳面な人だったんだろう…なんて想像しつつBessaにTmax400を詰めて、目の前のエーデルを飲んでベルクを出発した。