analogue life

シンプルな暮らしとフィルム写真のこと

春を前に気を病む

毎朝家の玄関を出る時、私達は一体何枚の仮面をポケットに詰め込んでいるんだろう。

私達は飛び込むコミュニティごとに口調を変え話し方を整え、思いをねじ曲げて作った理屈を型枠に詰め込み都合の良い言葉でそれを語り、時には意志と異なる薄ら笑いを作って毎日を過ごしている。

個々の人間が社会生活を潤滑に送るためにはこれが一番良いやり方なのかもしれないけれど、色んな仮面を取っ替え引っ替えしているうちに時々自分の素顔がわからなくなってしまう。

小さな子供はまっすぐにこちらを見つめている。

その視線を仮面越しに受けながら、もうすぐこの子に社会は仮面を渡すんだろう、この世界はなんと不幸だろうと時々悲観的になる。この子をこんな薄汚い大人がいる世界に送り出さなきゃいけない憂鬱と、私の思いとは関係なく社会がこの子の輪郭を作っていってしまうのだというふたつの憂鬱。

影が長く伸びるある冬の日の夕方の帰り道。

はいピース、なんてとても言えない。社会も世界も私の気持ちにも、どこにもピースなんてありゃしないのだから。

手を繋いで長く伸びた影の写真を撮るので精一杯。

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LEICA M6/Super Angulon 21mm F3.4/ORWO UN54