analogue life

シンプルな暮らしとフィルム写真のこと

2020年の足跡を振り返る

オイルヒーターを引き寄せ、ソファの上で毛布を身体に巻きつけて2020年に起きたことを思い出している。

酒ばかり飲んでいたからか歳のせいか、記憶と記憶の間から欠落している細切れになった思いが沢山ある。具体的なエピソードが思い出せないのに、不安だとか嬉しさという感情だけがふわふわと纏わり付いているような感じ。

自分のツイートを眺めたりブログの記事を読み返しながら、遥か遠くの過去を眺める様に記憶を手繰るけど、指の間をすり抜けるように、まるで他人の身に起きたことのように文字が通り過ぎていく。

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Hasselblad 500CM/CF Planar 80mm/Kodak Tmax100
人間の脳は目から耳から情報を詰め込まれると、どこかで記憶を嘔吐するように作られているらしい。楽しかった思い出も嫌なこともウィスキーとウォトカが流し去ってしまい、原型をとどめていない。

2020/01-遂にHasselbladを手にする

長いこと気になっていながら自分にとって高嶺の花の存在だったHasselblad 500C/Mの導入に踏み切った。

503にするのか501がいいのか、500のCとC/Mの何が違うのか…標準レンズとなるPlanar 80mmにもC、CF、C6枚玉があってこれらの違いは何なのかを色んな人に相談して悩んでいたところにたまたま綺麗な500C/Mの個体が出てきたものだから、ほとんど即断で購入に至った。

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SIGMA DP1 Merrill 

中判フィルムカメラはライカのように中古相場が高騰しないと言われていたけど、ここ最近引き合いが多いと聞くのできになる人は早めに良い個体を抑えてしまった方がいいかもしれない。

2020/02-ハズレレンズを引く

Hasselblad 500C/Mを買って数ロール撮った段階でなんか変だなこのカメラ…と思っていたんだけど、付いてきたCF Planar 80mmに問題があるようだった。

光軸がずれているのか、画面の下半分が恐ろしいくらいの片ボケを起こしていたので、修理を諦めてCF Planar 80mmの代替レンズ探しに奔走した。

ボディのコンディションが悪くない(むしろよかった)割りに購入価格が安かったので、探していた500C/Mのブラックに分解練習用のポンコツレンズが付いてきたと思えば・・・と自分に言い聞かせていた。

私が中判カメラを買うと、漏れなく何かを掴まされるらしい。

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Hasselblad 500CM/Planar 80mm F2.8/Tmax400

下半分がひどい片ボケを起こすハズレレンズはほぼ使い道がないけど、被写体によっては気にならない。 

2020/03-からっぽのストリート

この頃から海外からの観光客が激減した。

日本に来られる観光客が悪いわけじゃないけど、銀座を始め日本の街は海外からの観光客相手の店にどんどん塗り替えられ、この手合いの業者のせいで街の雰囲気がさも「日本人お断り」のように感じられるような方向に振り切れていたので、コロナ騒動のお陰で街の空気が変わり、私はとても清々した気分だった。

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Kodak Tmax400

世の中は一旦グローバル化を止め、少し巻き戻さないと世界中からその土地の特色が消えてしまうと思う。

元旅人の視点からも、これ以上のグローバル化は大反対だ。

旅は言葉が通じないから面白いのである。不便だから思い出に残るのである。

ジェネリックシティには何の価値も無い。

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Ilford HP5


ところで、この時期から日本国内でもコロナ騒動が始まったのだけど、世間はなぜかトイレットペーパーとレトルトもの、カップラーメンの購入に振り切れた。

全くもって馬鹿げた行動に走った私たちの醜態をよく覚えておきたい。

2020/04-自粛のはじまり

不謹慎だと罵られるかもしれないけど、精神と肉体が極度に擦り減っていた自分にとって自粛が始まったのはとても助かった。

自分の裁量で仕事をして家族と過ごす時間が取れる、人として当たり前のことが出来た期間だった。

私たちは意味のないしきたりを「常識」と呼び、仕事の本質をこの常識で何重にも包み、無駄だらけの仕事と社会を回していただけなのだ。

工夫と仕組みで仕事はどうとでもなるし、人口だってもっと少なくたって大丈夫じゃないだろうか。

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Hasselblad 500CM/CF Planar 80mm F2.8/ACROS II 

4月初旬、誰一人いない寺院の桜並木を眺め、ひらひらと散る桜をずっと眺めていた。

目障りな観光客も酔っ払いもいない。静かで美しい2020年の花見はとてもよかった。

多分こんな静謐な花見は未来永劫経験できないかもしれない。

2020/05-静かな海

桜の季節が過ぎ山が新緑で覆われる頃、潮風を浴びながら海辺を散歩していた。

誰もいない海。雑踏の声は遠く、潮騒が延々と続く。

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Hasselblad 500CM/CF Planar 80mm/Kodak Ektar 100

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Hasselblad 500CM/CF Planar 80mm/Ilford Delta 100

この時間がずっと続いたら…仕事や自分の将来に大きな影響があるのは明白だけど、それでもこの穏やかな時間は何物にも代え難く、もはや今までの生活になんて戻りたくないし、誰も望んでいないのではないかと思った。

みんな「早く今までの生活に戻りたい」と口に出すけど、心の底ではリモートでできる仕事を続けたいと願っているはずだ。

2020/06-物資不足

自家現像界隈はロジナル供給不足問題に頭を悩ませていた。

とにかくロジナル初め現像液がない。

物凄く薄く希釈して使うロジナルなんて永遠に無くならないんじゃないかと思っていたものが、全然日本に入ってこなくなっていた。

私は運良く現像液には困ってなかったのだけど、定着液とネガファイルを切らしてしまい、一旦ブレーキをかけざるを得なかった。

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Hasselblad 500CM/CF Planar 80mm/Kodak Tmax400 

2020/07-豊作の七月

確か世間は自粛が続いていたと思う。

この時期は2020年で一番仕事も気分も落ち着いていて、自分の納得する写真が撮れた時期だった。

豊作の年ならぬ豊作の月。

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Hasselblad 500CM/CF Planar 80mm/Kodak Tmax100

2020/08-発狂寸前

急に身の回りの世界が変わり、私生活が多忙を極め、あまりの忙しさに半分頭が狂っていた。

元来私は静かな環境で物事を考えるのが好きなんだけど、このあたりから外部の音を異様に苦痛に感じる様になった。

www1.nhk.or.jp

家にいても仕事場にいても今までは受け流せた音が辛い。

少し前までは複数人が同時に喋っていても気にならなかったのに、2人以上に同時に話しかけられると思考が止まるようになった。

「みんな出来るんだよ、大丈夫」なんて優しいんだか残酷なんだか解らない言葉をかけられても、当の本人には全く救いになってなかった。

本当に死ぬかと思ったし、なにかの弾みで自死しないでよかった。

みんな出来るから大丈夫、なんてことは絶対ない。

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Rolleicord IV/Xenar 75mm/Kodak Tmax100

2020/09 広角嫌いを克服する

小伝馬町ルーニィで開催された小池貴之氏の写真展にお邪魔して大変感銘を受けた。

シベリア鉄道車内で撮られた写真のいくつかはRussar 20mm F5.6で撮影されていて、たまたま会場でお会いした榎本さんが持っていたライカには黒い鏡筒のSuper Angulon 21mmが付いていた。

今まで大嫌いだと思っていた28mmよりも更に広角のレンズで撮られた素晴らしいプリントを眺め、前々から気になっていたSuper Angulonの現物を同時に目の当たりにしたのが決定打だった。

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LEICA M6/Summicron-M 50mm F2/CHS100II

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LEICA M6/Super-Angulon 21mm F3.4/ACROS II

Super Augulonはとても素晴らしいレンズで、広角が苦手だと思っていたのは特定の28mmレンズに対する苦手意識だったのだ。

2020/10-額縁を作っていた

自分の手を使ってものを作ることが好きだ。

だから本当は建築設計を生業にしたかったのに、いつの間にか全くその希望とは違う世界に流され漂着してしまった。

他人に流されてしまう程に意思が弱かった自分も悪いし、何かを断ち切れなかった、思い切れなかった自分も悪いのだけど。

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FUJI X-Pro1/Fujinon XF 35mm F1.4

日々デスクに向かい自分の時間を切り売りしながら人生を削っている毎日に、それしかできない自分と、どうやってもこの流れを断ち切れない自分自身にひどい嫌悪感を感じていた10月のある日、ふと、額縁を作り始めた。

アフリカ産の硬い無垢材を選び、自分の写真のためだけに額縁を作る。

丁寧にプリントされた写真が映えるような、自宅の壁に飾りたくなる額縁。

いつまでも使える堅牢さと、時代の流れに負けない強さを持った額縁ができたと思う。

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FUJI X-Pro1/Fujinon XF 35mm F1.4

2020/11-自宅暗室ライフはじまる 

今まで自宅暗室なんて遠い世界の話かと思っていた。

完全な暗室を作ることの難しさというより、引き伸ばし機はじめ資材を揃えて手技を学ぶ時間と経済的余裕がなかったから。

とは言え、写真をやる以上プリントを避けて通ることはできない。

ヴィヴィアン・マイヤーは写真屋さんにプリントをお任せしていたけれども、やはり多くの写真家は自分の手を動かしてプリントを行い、悩み、一枚の写真を仕上げてきた訳だから。

プリント機材を揃えるのはそれなりにお金はかかるけど、きちんとしたラボにプリントを外注するとRC紙六つ切でも一枚¥1,500を超えるし、細かくオーダーをしてもやはり自分の求める絵面ではなかったりすることもある訳で、自宅暗室を持つ方が懐には優しい。

要はいつ腹を括るか、だったのだ。

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Hasselblad 500CM/CF Planar 80mm/ACROS II

今年の11月は素晴らしいご縁を頂き、Durst社の引き伸ばし機をお譲り頂く運びとなった。

そっと背中を押された気がする。

この流れに身を任せ、自分が正しいと思ったことを粛々と進めていくことにした。 

2020/12-息を吹き返したように

時間を見つけては自宅でプリントを模索する日々。

家の構造上夜中でないと完全な暗室とならないため、寝不足が常態化している。

学生時代に課題を製作していた頃みたいでとても楽しいし、何かを作っている時間は生きている実感がある。

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LEICA M6/Summicron-M 50mm F2/ACROS II 

2021-収縮する世界

いや、もしかしたら世界は拡大するかもしれない。

何らかのイノベーションが起きて、新しい業態やトレンドが生まれ、世界を牽引するかもしれない。

とは言えそんなのは絵空事で、個人的にはワクチンはあまり大きな助けにはならず、来年も引き続きコロナウィルスとの付き合い方を模索しているのだと思う。

コロナウィルス騒ぎをきっかけに人間社会が今までの経済や社会のあり方を見直すことになれば良いと思っていたのだけど、いまこの世界の方向性を定める立場の人たちの思惑は、ワクチンを打つなりして今までの仕組みを延命させたいだけのように思える。

私はこの手合いの社会ともう関わり合いを持ちたくないと考えている。

生活のサイズを小さくして、身の丈以下のものだけを持つ生活。質素で美味しい料理を作り、写真を撮って丁寧にプリントする。

そんな生活にシフトしていきたい。

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Hasselblad 500CM/CF Planar 80mm/Kodak Tmax100 

グッバイ2020!