analogue life

フィルムが捉える世界は美しかった

Elmarit 90mm F2.8は破格の良玉

初めて身銭を切って50mm単焦点レンズを使った日の事を覚えているだろうか。

私の場合はズームレンズがセットになったエントリー向けの一眼レフを買った数年後に、知り合いから投げ掛けられた「写真が上手くなるには単焦点が必要だよね」と云う言葉を素直に受け取って50mmのレンズを買いに走ったことが発端だった。

初めて買った交換レンズをマウントに取り付け、喜び勇んでいざファインダーを覗いた際に「うわ!狭いな!」と思い10歩近く後ろに下がったことを覚えている。あの頃は若かった。

One Sunday Afternoon.

Nikon D700/SIGMA 50mm F1.4 

改めて昔の写真を見直すと色々無理してる感があって面白いやら恥ずかしいやら。この写真も例に漏れず50mmを使った時の「間合い」が解ってない。何撮ろうとしたんだろう自分…。

90mm童貞を卒業した

先月のはじめに譲ってもらったElmarit 90mm F2.890mm童貞を卒業した。

気に入ったレンズを使い倒す性分であるため今まで50mm35mmばかり使っていたけれど、実はずっと気になって仕方がなかった90mmという画角。実はTele Elmarit 90mmとElmarit 90mmの間で散々悩んだ挙句、ご縁のあった後者を迎え入れることとした。

全長も短くモダンなスッキリした印象のTele Elmarit 90mmに対して、Elmarit 90mmは図体もでかくて取り回しも面倒臭そうだし、鏡筒の長さがあまりスマートじゃなくて敬遠していたレンズなんだけど、実際に使ってみたらあっと言う間に馴染んだのには驚いた。

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iPhone SE/VSCO preset B3 

90mmのレンズが気になったきっかけはソウル・ライターの”Early Color”と鈴木恂の”回廊”、”天幕”だった。いずれもジャンルはストリートスナップなのだけれど、時折望遠レンズで撮ったであろうストリートの写真があってとても興味深い。

 

 

ソウル・ライターは自身のインタビューでTelephoto lensを使ったと言っているし、一方の鈴木先生の場合も105mmで道路の反対側から路地を撮っていた(これは近い人から聞いたので多分間違いない)ようなのでどちらも90mmではないのだけれど、35mm28mmのレンズを通した「肉薄した」世界ではない、どこか当事者感の薄い世界の切り取り方に魅了されていたのである。

そんな彼らの影響もあって私はポートレートを撮るためではなく、社会や世相を切り撮るためのレンズとして90mmを入手した次第なのである。

予想以上に狭い90mm

M6Elmarit 90mmを着けてファインダーを覗いたら、初めて50mm単焦点レンズを使った時のことを思い出した。世界が遠い。超狭い。

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iPhone SE/VSCO Preset C1

ことレンジファインダー90mmを付けて世界を覗くと、これでもか!ってくらいにフレームが小さい。これで都市とか建築を相手に写真を撮っていた鈴木恂先生は偉大だなと思う。

Elmarit 90mm作例

残り数コマとなったACROSが入ったM6とこのレンズ、手元にあったTri-X 400Tmax 400を持って街撮りに出かけた。Tri-XとACROSはフォトラボオクダさんに現像をお願いし、Tmax 400は自宅で夜中にこっそり現像した。自宅現像の現像液はAdox Silvermax 現像液を使い、Silversaltさん推奨の要領で行った。

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LEICA M6/Elmarit-M 90mm F2.8/Tri-X 400

前々から聞いていた通り、繊細かつとても諧調豊かな写りである。人生初の90mmショットだったけど、いきなりflickrがexploreに入れてくれた一枚。幸先良しである。

 

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LEICA M6/Elmarit-M 90mm F2.8/Tmax 400 

まだ陽の明るい新橋の飲屋街。狭い路地で写真を撮るとこんな塩梅。

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LEICA M6/Elmarit-M 90mm F2.8/Fuji ACROS

ボケはなだらかで美しい。

Ken Rockwell爺さんによると開放のボケは煩くてダメらしいけど私はそんなことはないと思う。ただ開放時のピント合わせは非常に神経を使う。合ってるんだか外しているんだからよく解らない時が結構ある。

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LEICA M6/Elmarit-M 90mm F2.8/Tmax 400 

日差しの強い5月末の公園。 なんだか好きな一枚。

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LEICA M6/Elmarit-M 90mm F2.8/Tri-X 400 

夕暮れ時から夜の有楽町。このレンズを付けて夜の街歩きをするときはISO800くらい欲しい。絞りを開けると合ってるか外しているか分かりづらいしシャッタースピードを遅くするとブレそうだし。でもこの黒の締まり感はいいと思う。

Elmarit 90mm F2.8について

このレンズは1959年から1974年まで製造された90mmレンズの傑作。

製造された期間はちょうどLeitz社の黄金期にかかっており、鏡筒の作りや工作精度の高さ、作業の丁寧さは驚くほど高い。私のところに来た個体も製造から50年経過してるにも関わらず、堅牢かつ優美な作りで経年劣化も少ない。まるで工芸品のようなレンズと言ってよいと思う。

イカのオールドレンズの値上がりが激しい昨今、どういう訳かこのエルマリート90mmは値上がりの波から取り残されている気がする。マップカメラで5万円台ということは、他の中古屋さんだと4万円台で買えるかと思う。この写りからしたら破格。

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同じ画角のTele Elmarit 90mmはそこそこの値段になっているので、ぱっと見の不恰好さが人気薄の原因なのかもしれないが、この写りと工芸品のような作りの良さは買いではないだろうか。

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まったくの余談だけど、2014年頃の「行くぜ、東北」のCMでこのレンズを木村文乃が使っていたようだ。散々不格好だとか、見た目に難があるだとか書いたけど木村文乃が持つととてもバランスが良く見えてしまうのが悔しい。 

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