analogue life

シンプルな暮らしとフィルム写真のこと

写真フィルムとフィルム写真の将来に思いを巡らす

2週間ほど前に方々で話題になった富士フィルムのフィルム価格改定の件。

具体的にフィルムのどの材料が値上がりしているのか外野からは中々解りづらいけど、物流コストが増加しているのは職業柄肌で感じているだけに富士フィルムとしても苦渋の選択だったのではないかと思っている。

…が、それでも30%以上の値上げ幅にはちょいと驚かされた。値上げ幅40%とか尋常じゃない数字だと思う。

たとえ会社の方針だったとしても、客先に出向いて「来月から40%値上げしますので」なんてさらっと言える?とてもじゃないけど、怖くて私にゃ言えない。終業後にこっそりメール一本流して逃げるように帰ると思う。

aremo-koremo.hatenablog.com

フジがACROSの生産終了を決定しモノクロフィルムから撤退した際に、私の中では富士フィルムという会社は終わったので、頬杖つきながら対岸の火事を眺めている気分ではあるけれど、それでもプロビアとかProHが1800円程度になると聞かされると心中穏やかではない。 

N0452019

LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fuji ACROS

ACROSは本当にいいフィルムだった。さよなら富士フィルム

写真フィルムの将来って、やっぱり暗いんだと思う

ところで、富士フィルムが販売店に送っていたFAXに「ワールドワイドでの長期的な需要の減少により安定的な供給が困難になった」という一節があったんだけど、エクタクローム再販の際に「アナログ・ルネサンスは世界的な消費トレンド」とプレスリリースを出していた競合のコダックとの対比が面白い。フィルム市場に対するフジとコダックの温度差って結構あるなぁ、という印象を受けた。

wwwjp.kodak.com

私は写真フィルム業界の関係者ではないので、エラそうなことは言えないし憶測で無責任なことも書けないけれど、富士フィルムは医薬品事業に進出し、いまや業績絶好調な企業であることは誰の目にも明らかだし、写真フィルム事業は既に稼ぎ頭からは程遠い状況であることも間違いない。

昨今のアナログ回帰により短期的には需要は増えるけど、中長期的に見たときに写真フィルム事業に伸びしろはないし、いち民間企業としてフィルムを供給する道義的な責任もないしね。

実際は数年前にこのような経営判断はなされていて、今回の値上げも死に向かうフィルム事業が辿るひとつの通過点なんじゃないかな、と思う。

N0392019

LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fuji ACROS 

デジタルで撮ろうがフィルムで撮ろうが

ぶっちゃけた話、大多数の一般消費者にとって一枚の写真がフィルムで撮影されていようがデジタルで撮影されていようが、違いなんてどこにもないのである。

デジタルで撮ってVSCOなんかを通せばフィルム風に加工することはできるし、やもすれば結構いい感じの雰囲気でフィルムっぽい画像を作ってくれたりするので、「フィルム風の絵」が欲しいだけの人は引き続きデジタルを使っている方が賢明だ。

*1

N1212018

BESSA R3A/Summaron-M 35mm F2.8/Adox SCALA

N0232016

Fuji Xpro1/XF35mm F1.4/VSCO film package 4 Agfa Scala 

AdoxのScalaで撮った路地裏と、Xpro1で撮ってVSCOのScalaプリセットを通した2枚を並べてみた。VSCOのプリセットも雰囲気あって良いし、ハイライトが変にすっ飛んでいない限り、目を皿のようにして等倍で見比べないとどちらがフィルムかわからない。 

フィルム写真の未来

1990年代〜2000年代初頭のような状況はもう二度とこない。これはもう間違いのないことだと思うけれど、じゃあ写真フィルムは絶滅するかと問われたら、そんな未来もちょっと考えづらい。

実用的な消費財としての写真フィルムの価値はすでになくなったけれど、嗜好品としての写真フィルムと道楽としてのフィルム写真は残り続けると思う。

N0412019

LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fomapan 400  

自分の頭で考えてシャッターを切り、自分の手で現像し紙に焼くというプロセスはものづくりのプロセスそのもので、一度この深みにハマってしまうとデジタルで写真を撮ってディスプレイの上で写真を眺めることに物足りなさを覚えてしまう。

ものづくりが好きな人にとってはフィルム写真の方が絶対的に楽しいのである。この味をしめた人は、フィルムカメラがメインになる。きっとね。

個人的には、カメラやレンズを売る中古屋さんも大切だけど、フィルム写真の楽しさを伝えるワークショップも大切だよなと思っている。 道楽の伝道、承継みたいな。

もしかしたら向こう100年でフィルム写真は、茶道とか華道みたいな位置付けになるのかもしれない。まずはレンズとカメラをお互い褒めちぎり現像タンクを愛で、攪拌作業のお点前をどうたらこうたら…みたいな伝統芸能に進化しちゃったりして。

フィルムメーカーの将来像

専業フィルムメーカーは本当に大変だと思う。

コダックアラリスやアグファゲバルト、フォマボヘミア、イルフォードあたりはちゃんと安定した経営できているのだろうか。田舎のおっかさんじゃないけど心配でならない。フジみたいに業態を変えて脱皮すればいいんだろうけど、どこのフィルムメーカーだってフジみたいな大成功はそう易々とできない。

N0432019

LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fomapan 400 

そんな中にあって、Adoxはある意味フィルムメーカーの将来的な姿なんじゃないかと思っている。スモールブルワリーが作るクラフトビールのように、小バッチで高品質なフィルムを作り続ける小回りのきくメーカー。

事業撤退したり倒産したフィルムメーカーから製造設備を導入し、ノウハウを承継しつつ新しいフィルムを作り出していく姿勢はとても好感が持てる。 

www.yorocco-beer.com

www.adox.de

逗子のヨロッコビールのページとAdoxの工場設立のページを並べて眺めてみると、少量高品質のものづくりにかけるスタンスが似ているようにも見える。

フジのモノクロフィルム製造設備はどうなるんだろう

ちょっと前にフジがモノクロフィルムの新製品を出すんじゃないかと云うニュースが駆け巡ったけれど、あれは企画倒れに終わっちゃったのかもしれない。…となると、フジが持っていたモノクロフィルムの製造設備はどうなるんだろう。

解体して廃棄されちゃうのかな。もし減価償却も終わってるしあとは捨てるだけ…なんてことだったら譲ってもらえないかな。

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LEICA M6/Summaron-M 35mm F2.8/Fuji ACROS 

私一人では何もできないけれど、数人の同志を集めてクラウドファンディングを資金を集めて技術者共々事業を承継して…Adoxみたいな小さなビジネスができたら面白そうだと考えてるんだけど。

 

 

*1:注:Mac/PCで使えた旧来のVSCO filmは素晴らしい出来だったのに、残念ながら2019年2月でデスクトップ版は廃止となり以降はスマホ/タブレットのみ供給されている。