analogue life

フィルムが捉える世界は美しかった

東京マラソン2019に思うこと

フィニッシュラインが見えた時、朦朧とした意識の中にじわじわと込み上げる達成感があった。気温6℃の冷たい雨と風の中、初めてのフルマラソンのゴールまで後十数メートル。手首から先の感覚は既になく、ずぶ濡れの靴の中の足は別人の足の裏のようだった。

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事の発端

2018年8月頃、銀座の片隅で仕事仲間と夕食を食べていた時にふとマラソンの話になった。

元々走ることが好きでもないし、陸上なんてやったことないしランナーのファッションも苦手だし、お金を払ってまで苦しい思いをするなんて、とてもじゃないけどそんな真似できない。マラソンランナーってみんなドMね。…と長年思い続けてきた私は適当に話を合わせてまともに取り合っていなかった。

 
がしかし、宴会の盛り上がりと酒の力は怖い。

ラソンランナーの方に扇動され、気がついたらiPhoneを懐から取り出させられ集団で東京マラソンのエントリーがスタート。みんなやってるんだから君もどう?みたいな巻き込まれ事故。

逃げ遅れた感で胸が一杯だったけど、10倍を超える高倍率のマラソン大会に「まったく走ったことない人」がエントリーしてもどうせ当選しないだろうし、まぁいっかーと高をくくってエントリー終了。宴会も終了。解散。

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当選してしまった

2018年9月25日。メールボックスを開いたらそこには当選メール。二度見した。

まさかこの倍率を掻い潜ってズブの素人が当選するとは…。なにかの間違いじゃないのかと思ったけどやっぱり当選していた。

同時にエントリーした仕事仲間はすべて撃沈。図らずも我が職場唯一にして未経験のランナー誕生となってしまった。

東京マラソンのエントリーはネタだから棄権してもいいよね…と聞きたかったが、同僚の目の色が厳しい。聞いたらたぶん殺される。ダルいから辞めますは通用しない。何がなんでも走らなきゃいけないこの感じ。

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練習をはじめる

本番は2019年3月3日だから、当選の通知を受け取った時点で残り時間は5ヶ月しかない。

元々休日はサーフィンに勤しんでいたり三脚とカメラ抱えて歩き回っていたので、我ながら上半身はしっかりしているが、下半身がてんでダメ。特に走ったり階段を上らされたりするのが苦痛でたまらない怠け者性分。「だるい」と「めんどくさい」が口癖のへそ曲がり。

とは言っても練習しないことには始まらない。ランナーみたいな服を揃えてから練習するのは痛々しいと思ったので、手近にあったユニクロの寝巻き(ステテコ)とTシャツとスニーカーで走り始める。

走った記録はきちんと取っておいて練習を効率化しないといけないという意識だけはあったので、Nike Run ClubをiPhoneに入れてランニング開始。ハウスとかテクノとかワークアウトっぽい音楽を聴きながら走るのも俗っぽくて嫌だったので、Radikoで野球中継聴きながら走る。男は黙ってAMラジオ。

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走る、走る走る!

練習を始めた初日の記録がいま手元にある。3.36kmを19分ほどかけて走って、息が切れてハァハァ言いながら自宅に帰ってきた時の記録。我ながら情けない。みっともない。

全力坂で美女がハァハァ言っているシーンであればまだ救いようがあるが、いい歳したおっさんがたった3キロ程度走っただけで息を切らせて玄関先でしゃがみこんでいるのだから、全くもって見苦しい。こんな見苦しい自分は嫌だ。ちゃんと走れるようになりたい。 
幸先悪いスタートかと思いきや、本番までに時間がないと焦ったからか、いま見返してみたら10月は酷いと毎日のように走っていて、日々1,2キロずつ距離が伸びていく。

気がついらた驚いたことに10月末には15キロ、11月の中旬には20キロを普通に走っていた。この時点で20キロが1時間50分程度で走っていて、フィルム買いに20キロ先まで走ったりしていた。やればできる子。

無茶をすると身体は本当に壊れる

頭の中身は少年のつもりでも身体はおっさん。身体にかけた負荷が一線を超えると急にポンコツになるらしい。

12月の中旬、いつものように走っていたら急に膝がミシミシと痛くなり始めた。痛い方の膝を庇いながら走っていたら、こんどは逆側の脛内側の骨もシクシク痛くなってきた。

骨が折れているということは無さそうだけど、これは一旦身体を休ませなければいけない。

そう思い練習は一旦お休みにして、忘年会シーズンの宴会戦線に転戦。主戦場は宴会。

1月から距離を短くして練習を再開。

 

ランナー登録

出走前にランナーの登録をするからお台場に来てね、と連絡があったので仕事帰りにお台場へ向かうと、大きな大会テントとスポンサーのブースが設営されていて驚いた。

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ランナー登録の受付をくぐると、手首に出走者の情報が入ったリストバンドを巻かれ、靴に装着するRSタグとゼッケンその他一式をもらった。RSタグがコース内のポイントを通過すると情報が逐次収集され位置情報と記録に反映されるんだとか。マラソンなんて走った事ない身からしたら、ゼッケンくっつけて走りゃいいんだろ…くらいしか考えていなかったので、このハイテクぶりには驚いた。

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ランナー登録会場はお祭り騒ぎで、アシックスのブースでは東京マラソン限定のシューズを売ってたり外人向けに切腹最中を売っていたり、誰に向けて何をやっているのかわからなかったけど証券会社とか東京司法書士会のブースも出ていて普通に楽しかった。 

 

本番の朝

朝5時起床。前日に前祝いと称してしこたま飲んだけど身体は快調。荷物を抱えて玄関出たらなんだか怪しい雰囲気。昨日の予報だと雨は15時からって聞いていたんだけど、これは雨かなーと思って天気予報を見たらまさかの終日雨。

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東京都庁に着いたらランナーの荷物を預かる佐川急便のトラックがずらーっと並んでいてちょっと壮観。

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いままでフルマラソンの経験がなかったので、エントリーする際に予定ゴール時間を一番遅く設定したのだが、どうもスタート地点の組み分けは足の速さ順になっているようで、スタート前待機位置として案内された場所はなんと新宿中央公園の端っこだった。都庁は見えるけど、出走前セレモニーは音しか聞こえない

 

フードを被り強くなる雨の中、公園の端っこで待つ事40分。

突然耳馴染みのあるさわやかなMCが耳に届く。あの声は間違いなくJwaveで活躍するDJ Taroさん。姿は見えないけれどこの雨の中でもラテンの空気感があって素敵。

一通りMCが終わった頃、男声合唱団による荘厳な君が代。フードを脱ぎ君が代の方角を向くと、どんより曇る冬の空と重々しい丹下健三設計の東京都庁舎に男声の合唱がとても合っていていたく感銘を受けた。

 
ヨーイドン!の号砲は聞こえなかったけれど、代わりにリッチなディストーションが乗ったらエレキギターの爆音。よくよく耳を傾けると、天城越えを弾いている。しかも無茶苦茶に上手い。どこまでも伸びるサスティン。弦とピックの擦れる生々しい音。

マーティ・フリードマンだ。上手すぎる。

降りしきる雨の中で聞いた、この生々しいギタープレイはここ数年で一番感動した瞬間のひとつかもしれない。マーティのギターの音で身体中の鳥肌が立った。さぁ走ろう!

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出走!

再びDJ TaroさんのMCとファレル・ウィリアムズのHappyに背中を押されながらスタート。先頭のスタートから遅れる事25分で鈍足集団もスタートである。このスタート地点のお祭り騒ぎ感がもう半端ない。もう楽しくってしょうがない。

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スタートしてしばらくは気にならなかったのだけど、3キロ地点で自分の脚が意外に速くなっていることに気づく。そもそもフルマラソンが初めてなので一番遅いタイムを設定していたのだけど、実際に走ってみると前後左右のペースがとても窮屈。手元のNike Runを見ても明らかに遅い。

いい気になって、左右に蛇行しながらランナーをどんどん抜かしていく。中央に寄ったりハイタッチしに歩道に寄ったり、後々の疲労につながることも恐れず絶好調な立ち上がり。

収容バスと関門時刻の話

東京マラソンには一定距離で足切りになる関門が設定されている。会社でプリントした各関門と関門閉鎖時刻を開いてみると、スタートX分後という記載では無く「5.6km収容関門10:30」、「9.9km収容関門11:00」…と時刻指定となっている。足遅い組はスタート地点を過ぎた時点で20分近くロスしているので、足が遅いなりに前半はまじめに走らないと足切りを食らう羽目になる。

今回は収容されることがなかったが、万一足切りにあうとそこで試合終了。数十台待機しているはとバスに乗せられゴール地点までご案内なのだそうだ。それだけは嫌だ。

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道中はひたすらに楽しい

東京マラソンといえば仮装ランナー…と思っていたけど、雨だからか全体的に仮装して走っている人は少ない印象。マツダスタジアムから抜け出してきたであろうカープファンがそこかしこに居たくらいで、みんな真面目にマラソンに向き合って走っている。

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それよりも沿道からの声援とプラカードがとても嬉しい。

日常生活で応援されることなんて中々無いので、応援される側って本当に心強いんだなぁと思った。ふと見上げると路上の電光掲示板にもランナーへのメッセージが表示されていた。

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途中途中にチアがいたり、神輿が出ていたり防衛省の楽団がいたり、もう本当にお祭り騒ぎなのである。  

やっぱり膝の痛みが出た

確か25キロ地点くらいだったかと思うが、そこまで快調だった膝の痛みが急に出てきてしまった。スタートしてからずっと膝の調子は良く、20キロ地点あたりでペースをさらに上げてしばらく走っていたら急におかしくなってきた。

この時点でいくつか水たまりに足を突っ込んじゃっていて靴の中がぐしょ濡れ。膝をかばうためにペースを落として走り続け、30キロあたりからは走るのと歩くのを交互に繰り返し始めたのだけど、一旦運動量を下げてしまうと、冷蔵庫内のような外気温と雨風が身体の熱をどんどん奪っていく。

ここでようやく気がついたのだが、コース上に表示されているキロポストとNike Runが表示する走行距離が2キロ近く乖離している。

いくらGPSの誤差があるとはいえちょっとズレすぎじゃん…と思ったら、スタートから10キロくらいまで随分と蛇行したり、いい気になってハイタッチしに左車線寄ったり、TVカメラにピースしに行ったり…という愚行がチリツモで嵩んでいたように思う。東京マラソンは楽しいが、あまりはしゃぎ過ぎると後行程が辛くなる。

地獄の残り5キロ

沿道からの暖かい声援に押されてどうにか頑張ってみるが、膝の痛みが自制できない程度まで酷くなってきたのがこの地点。加えて雨風も強くなってきて、そこにビル風もちょっぴり加わってくるものだから、体温がどんどん奪われていく。

最後の収容関門である39.8キロポストを超えたあたりで、ちょっとだけ気持ちは軽くなったけどゴールに向けて駆け抜ける丸の内仲通りで最後の地獄を見る。

丸の内仲通りのお洒落な石畳は、膝を痛めたランナーにとっては最後の無慈悲。本来ならば笑顔で駆け抜けたい場面なのに、汗と鼻水と雨水でぐっちゃぐちゃ。

わー、きついー!…と思っていたら、42キロポストの表示が視界に飛び込んできた。

もう少しだ!

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人生ではじめてのフルマラソンを終えて思うこと

ゴールしてしばらくの間、無駄に長いゴール後の動線をぼんやり歩いていた。

初めてのフルマラソンにしてはコンディション悪かったせいもあって、疲労がピークに達していたんだと思う。思ったほどドラマチックなゴールの瞬間も無ければ、走ることから解放された安堵感もあまり無かった。

フィニッシャータオルを肩にかけてもらって、完走のメダルを首にかけてもらって初めて自分がフルマラソンを走ったんだという実感がほんの少しわいてきた。

 

東京マラソンに当選したのが5ヶ月前。この5ヶ月間の必死の頑張りがあったからだと思うけど、東京マラソンのゴール地点を境に色んな事が変わった気がする。

東京マラソンに当選しなかったら、マラソンなんて始めていなかった。東京マラソンをきちんと完走するという決意をしなかったら、こんなに真面目に練習なんてしていなかった。もしも膝の痛みで早々にリタイアなんてしたら、練習不足で関門で足切りになっていたら…マラソンなんて言葉を聞くのも嫌になっていたかもしれない。

高倍率の東京マラソンにすんなり当選し、膝の痛みはあったけどきちんと完走できたことは自分の新しい趣味を始めるために何かに導かれたのかもしれないと、ぼんやり考えていた。

 

完走メダルを握り。タオルを頭から被せて日比谷線のプラットフォームに向かいながら自身に問う。

「マラソン楽しかった?もう一度走りたい?」

答えはもちろんYes。絶対来年も走る。もちろん今年よりもいいタイムで。

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