現像から上がってきたAdox SCALAのフィルムを光にかざして思わず息を飲んだ。
撮った本人も忘れていたような一枚がまるで浮き上がるかのように緻密で、モノクロームであるにも関わらず、色がきちんと乗っているような印象すら受ける。
無いはずの色が見える…なんて表現すると聞こえない音を聞き分ける末期のオーディオマニアのようだが、様々な色をモノクロームの階調にきちんと落とし込んで一枚のスライドができている、そんな印象。
普段リバーサルなんて使わないもんだから、今回現像から上がってきたSCALAを確認するためだけにこんなアプリを買ってしまった。これ作った人ニッチ狙いすぎだなぁ、とか思いつつ使ってみたらとってもお手軽で便利だった。
SCALAの現像はSilversalt.jpでも受け付けているとのことだったが、今回は田村写真さんにお願いした。麻布の事務所にフィルムを持って突然お邪魔した格好だったが、雑談含め快く対応してくれた田村さんはとても素敵な方だった。郵送でも対応してくれるとのことだったのでSCALA現像はハードルが一つ下がった感じ。
スキャンはPlustek 8200iとSilverfastの組み合わせ。スキャン時のコントラスト設定で印象はかなり変わるが、ライトボックスを通して眺めたスライドフィルムに概ね近い感じでスキャンできた気がする。Silverfastできちんとスキャンできるのか若干の不安が合ったが、この心配も杞憂であった。
これは確か長谷寺だったと思う。陽射しの強い暑い日だった。リバーサルっぽいバリッとコントラストが効いたメリハリある感じ。
最近の観光地は外国人が増えすぎてしまって正直困惑もしているし、外国人だらけの東京の景色に食傷気味になっている。これはいろんな言語で願い事が書かれた絵馬に混じって、目に飛び込んできた戦慄走る一枚。左から2番目の胴体が微妙に切れてる。なんだか怖い。
品川駅の金属屋根の質感がいい感じ。奥に向かって連なるディスプレイが白に飛ばないように撮ったので暗所が黒に潰れてるかと思いきや結構粘る。
横浜駅西口の夜といえば鈴一。鈴一といえば横浜駅西口。仕事帰りの時間は次から次へと サラリーマンやら年金生活と思しき爺様、怪しげな兄さん達が入れ替わり立ち替わり。天ぷら蕎麦を頼んだら30秒ほどで出てくる。首都圏で一番早いんじゃないかと思わせる驚きのオペレーション。
同じ店をフジAcrosでも撮っている。あっちはズミクロン50mmで撮ってるので純粋な比較はできないけど、繊細さで比べたらACROS が上手かな。SCALAは濃厚。
これは先日成田空港廃墟駅(東成田駅)に向かう際に撮った一枚。画角は違うけどDP1Mでも撮っているので比べてみると面白い。
DP1MのモノクロームやフジACROSと比べてみると、SCALAは特段シャープでも緻密でもないんだけど他所様での評判通り黒の表現力が素晴らしい。ズマロン35mmとの組み合わせが合っていたのか、ACROSやDP1Mがあっさり緻密なモノクローム写真なのに対してSCALAは湿度たっぷりで粘土高めな力強い描写をする気がする。そう、このフィルムの魅力は湿気感なのかもしれない。
他のフィルムに比べて現像コストは安くないけど、フィルム本体がそんなに高くないのでもう少し根気よく使い続けてみようと思う。